2025 / 03 |
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「……あ、バレちゃいました。すみません、匿っていただいていたのに」
ラウンズの服を身にまとった明らかに今までと違う雰囲気の少年は、皇帝たる人物にそう言った。
その時の両者の間にのみ流れる雰囲気は、『狐と狸の化かし合い』という言葉がぴったりと当てはまるようなものだったと、ジノは父と、護衛で控えていたナイト・オブ・ワンから聞く。
まず、そう切り出したスザクに、フッと不敵に皇帝は笑った。
「これは、一年前には予想されていたこと。お前の正体を唯一、知っていたユーフェミアは…」
「10年前にお会いした…あの時の事を覚えていらしたのは意外でした。会って一言、『貴方が何故ここにいるのか』でしたからね。誰かさんのせいで、私はとある山奥の屋敷で保護されていることになっていたらしいと聞きましたし」
にっこり、と、擬音がついてきそうな笑みだが、目は笑っていない。
「さて、私はどこぞの大陸の者が回収しようとしていると聞いたが…?」
「…おや、祖父の遺言に忠実に従う形で存在する縁の結び目が、そんなことを言ってよろしいので?」
「はっははははははははは」
「あはははははははは」
こわい。
両者の間にのみ流れる冷たい空気は、周りにまで影響していた。
腕を擦る人まで出ている。
「私の能力と中華連邦との関係を考えて保護しようとしてくださっていたのに、三ヶ月で諦められるとは珍しい」
「夫君の姿を中華の天子殿が必死に探していると聞いたのでな。遠慮したまでだ」
「おや、貴方の口から『遠慮』とは。明日は雪でも降りますか?」
あくまで笑顔で。
しかし空気は寒い。
そんな恐ろしい光景は三時間ほど続き、ふと、スザクは当初の疑問を思い出した。
「そういえば、私は何で呼ばれたんです?友人や婚約者と再会してお茶をしただけで、何も話すことはありませんよ」
「……そうだったな。あぁ、朱仁親王。貴方のお陰で中華連邦とは不可侵軍事条約と、『日本』から亡命した戦犯の引き渡しが決定した。調停に」
僅かに変えられた口調と呼ばれた名に、スザクは…否、朱仁は立ち上がった。
穏やかな笑みはそのままに、しかし、そこに在るのは為政者の、支配者の貫禄だった。
「この私を調停に『使う』と、そうおっしゃるか?愚かとしか思えんな、ブリタニア皇帝?十年前の『悪戯』が余程効かなかったと見える。お望みならば、また色々と画策してしんぜようか?」
『十年前の悪戯』。その言葉に、皇帝とナイト・オブ・ワンの顔が僅かにひきつった。
「それは…ご勘弁願えないだろうか、朱仁親王。流石に、あのような…」
「ふむ。祖母に協力を願い出たあれが一番堪えたと見える。あぁ、名誉になったのも、後々の周りからの目を予想しての嫌がらせなので、悪しからず」
にっこり、と、擬音がついてきそうな笑み、再び。
「そうですね…では次は、祖母から受け継ぎしこの髪色と瞳を最大限に駆使して、祖母の少女時代の再現でもいたしましょうか?」
この瞬間、その場にいる全員が、少年の『嫌がらせ』がブリタニアが日本に侵攻したその時から始まっており、この場を、少年が完全に掌握していることを悟らされた。
「何故、名誉に……」
「名などに執着する気はないですが、一応、元我が民をあそこまで殺し尽くされてはね。これくらい、可愛いものでしょうて」
終始、笑っている。その笑みは途絶えていない。
口調と発せられるその気配だけが、すべてを裏切っていた。
「……『使う』気など、元からない。そのような恐ろしいことをして、明日の朝日も拝めぬなど、冗談が過ぎる」
「貴方が朝日が昇るさまを見るほど早起きとは思えませんが…まぁ、いいでしょう。つまり、私に大使館の大使の真似ごとをしろと?」
その言葉に、内心冷や汗をかきつつ、皇帝はうなづいた。
「中華と黒の騎士団は、綿密に連絡を取っているとも聞く…。先日も、黒の騎士団が幹部で来たという話は報告書で既に読んだ。下手な軋轢を生まぬようにだ」
「……了解しましたよ、皇帝陛下。わが名とわが身、われに流れるこの血脈をもって、貴方の『頼み』、お引き受けいたしましょう。…そうなると、ラウンズとしての仕事は?」
「……ユーラシアが中心となる」
厳かに了承したと思った途端の、少々ずれた問いに、脱力しながらも答えたのはナイト・オブ・ワンだった。