2007/12/05 23:01:59
先日、書類整理をしていたら懐かしいものを見つけまして、載せてみました。
ギアスではなくて、彩雲国物語という角川の本です。
かなりオリジナルキャラクターが入っていて、ものすごく捏造で、凄く懐かしかったです。
ついでに、少し直してみました。の白虹のネタバレも入っているので、半分だけですが、見たい方だけどうぞ。
その内、改訂してこちらに載せるかも知れません。
時間があったら、次の土日に獄中の姫宮を少し上げます。
ギアスではなくて、彩雲国物語という角川の本です。
かなりオリジナルキャラクターが入っていて、ものすごく捏造で、凄く懐かしかったです。
ついでに、少し直してみました。の白虹のネタバレも入っているので、半分だけですが、見たい方だけどうぞ。
その内、改訂してこちらに載せるかも知れません。
時間があったら、次の土日に獄中の姫宮を少し上げます。
与えられた室の中、燕青はくつろいでいた。
今、秀麗は清雅と共に新しく来る臨時の吏部尚書の出迎えに行っている。何で御史がとは思ったが、どうやら長官とは知り合いで色々と話を聞いたらしく、二人に会ってみたいと言ったらしい。
優秀なら借りたいから。と。
罷免された李侍郎とあっさり辞めた吏部尚書の事実を、意外なほどあっさりと秀麗は受け止めていた。
それには清雅も僅かに目を見張っていたほどだ。
しかし、罷免理由は正当だしそう取られてもおかしくはないものだった。
一御史が反論しても意味はない。
「そういや……」
罷免という言葉で思い出すのは、茶州にいた時。
十年という長い年月の中、自分達に官吏としてのすべてを教えてくれた人。
茶州においては今も知らない者はなく、誰もが羨み、憧れるその人。
あの鄭悠舜が唯一、心底感服し白旗を上げた人間だ。
「あの悠舜がかなわなかったんだもんなぁ……」
いつも自分達を叱り、いつも厳しかった。
そして何より時折見る朗らかな笑顔が、秀麗とは違った意味で燕青は好きで守りたかった。
茶州府の誰よりも幼かったのに、誰からも『師範』と呼ばれ、時折来る二人の師範達と共にいつも何処かすべてを超越している人だった。
「師範達元気でやってんのかなぁ…」
十年一緒にいた師範はまだしも、他の二人は顔を覚えてさえいない。
何処かで会っているかもしれないと思いながらも、気づける自信がないのが現状だ。
「ねむ……」
茶州の師範は、自分の前の州牧をちょうどいた監察御史…つまり名才を使って解任させた。
その在任期間は僅か半年。
彼が茶家にいいように操られているのを見かねて、罷免に持ち込んだらしい。
あの時は、あの方の手の内にいるという事にさえ、気づけなかった。
これは、事の顛末を聞いた時に、名才が締めに言った一言だ。悔しそうに、だが何処か嬉しそうに言うその姿が印象的だった。
瞼を閉じる。
眠りに落ちていく意識とは反対に、懐かしい情景が、何処か誰かに見せてもらっているかのように、確かに色を持って動き始めた。
茶大官に伴われて、司牧として茶州へと。
その旅は、眼前にある城によって終わった。
門の前には子供が一人。
「おいおい…門番いねぇのか?」
出迎えはその子供一人のようだ。
茶大官に続いて歩き、後少しで門という時、
「うおぉぉ!」
刺客が四方八方から襲ってきた。
しかしそれらは一瞬にして地にひれ伏した。
燕青が昆を構える間もなく。
「は…?」
辺りを見渡すと、城の前にいた子供が居なかった。
そして、
「お久しぶりです、茶大官。道中お疲れ様でした」
その子供は、いつの間にか距離を縮めて目の前にいた。
手には、子供には似つかわしくない短刀という名の武器が二つ。
背筋はピンと張っていて、しっかりとした瞳が何となく印象的だった。
「久しいの。わざわざ出迎えもしてもらって、すまんな」
「いえ、仕事ですから。一服なさったら、本家へお帰り下さいませ。と、英姫様から言伝を預かっております」
「わかった」
小さいくせに、妙に大人ぶっている子供。
それが、第一印象だった。
茶を出されて一服していると、室に人が入ってきた。
藍家の人間ととてもよく似通った…少年。
「……………新しい司牧か」
「あぁ、そうだ。戒李、今帰りか?」
「三日前に来た。……茶大官、本当にそいつらで大丈夫なのか」
冷めたような涼しい目は、自分が知っている三人とはかけ離れすぎていて。接点はないと思えた。
しかし、その容姿は瓜二つだ。
「どういう意味だよ?」
少年は、燕青の睨みを軽く流した。
「……見たところ、まだ自覚の一つさえしていない」
「なっ……」
反論の声は、すぐに途切れる。少年の短刀の刃が、燕青の喉元に突きつけられていたからだ。
「……」
その物言わぬ瞳は、『自覚があるなどとは言わせない』と語っているようで。
「戒李。やめよ」
茶大官が止めるまで、その短刀は燕青の命を食らおうとしているかの命を食らおうとしているかのように輝いていた。
「………………」
「戒?そのままだと眉間の皺が固まるよ。言いたい事は分かるけど」
戒李は、依然として沈黙したままだ。
「何?そんなにあの二人が気に入らないの?最終的には主…父様だって許可したんでしょう」
しばらく、また沈黙。
戒李は、器用に二人の子供の髪を編んでいる。
「え?自分が国試に受かってからでもよかったんじゃないかって?それも一理あるけど、それじゃこっちが大変なの」
完全に独り言に聞こえるが、会話は一応会話は一応成立している。ただし、彼らの中だけでだが。
「…煌、あれらをどうするつもりだ」
やっと戒李が口を開くと、煌と呼ばれた子供は苦笑しながら言った。
「私が何もしなくても、茶大官から依頼が来るでしょう。そっちこそ大丈夫なの?藍本家に行ってきたんでしょう」
少し考えた素振りを見せた後、戒李は簪を持ちながら思い出すように言った。
「母親には会ってない。弟と…三つ子当主にのみ会ってきた。前当主に会ったら、謝られた。気にするなって言うと、嬉しそうに笑ってたな。俺が〔誰の〕使いで来たのか忘れてるな、あれは」
「あはは。そうか。仮面被って愛想笑いは疲れるでしょ?頑張ってよね。三つ子当主と弟くんは?どうだった?」
「…三つ子も弟もずば抜けていると思う。しかし、我々には及ばないな」
「………及ぶような奴がいたら怖いよ?」
「…ともかく、五日後に紫州に戻る。文でしか報告をしていないからな」
「ん、了解。茶大官に伝えとくね」
それからしばらく間をおいて、二人の子供が戒李の傍らで寝てしまった後。
室の扉が静かに開いた。
「失礼致します、師範。仕事が、片づきました……」
頬は頬は少しこけ、目の下にはくま。しかし、目にはまだ灯りが点っていた。
「才。ご苦労様でしたね。皆に休んでも構わないと伝えていいですよ。お茶はいかがかな?」
「いえ。休憩をとってもいいと伝えねばなりませんので…」
室を出ようとする才を戒李が引き留め、座らせる。
「…俺が行ってくる。ついでに、地下倉庫から冬物の掛布でも持ってこよう。さすがに寒いだろうからな」
「か、戒李師範…」
「人の好意は、素直に受け取れ」
そう言って、戒李は、そのまま室を出ていった。
そして、諦めを促すかのように茶が出される。
「……いただきます」
数拍おいて、下でどたばたと音が聞こえた。どうやら、総出で掛布を出しているらしい。
眠いのを我慢して頑張ってい眠いのを我慢して頑張っているであろう州官達の姿を想像し、苦笑する。
そして、そう言えばと煌は切り出した。
「才。先程茶大官に連れられて新しい司牧達が到着しました。州牧に狼燕青。州伊に鄭悠舜。狼燕青は正式な官吏ではないので、制限も多く初めは戸惑う者もおりましょう。正式な着任式は明後日の正午前に執り行います」
「やっと、おいでに……今度は大丈夫なのですか…?」
「いざとなったら、私がはり倒してでも仕事をやらせましょう」
その言葉に、才は飛び上がった。この目の前にいる師範は、自分が知る限り、今まで決して公に政には入っては来なかったからだ。
今は新しい司牧が着任するまで手伝ってもらっているが、本来は違う。元から、政自体に興味を持つような人ではなかったから。
「師範…」
「何ですか、その頼りない目は。情けのない。どうせ茶大官あたりが…と。噂をすれば」
窓の外には、鷹がいた。師範に文を渡すと、また空に飛び立つ。そんな様をみていると、笑い声が聞こえた。
「……師範…?」
「あぁ、すみませんね。茶大官から、新しい司牧の教育係になってくれと来ましたよ。手段は問わない、と。さすが茶大官、分かっておられる」
いえ、そう言う問題ではなくて。
心中の混乱をよそに、煌はにこやかに微笑んだ。
「才。これから私はあの司牧達の為に色々とやる事になる。お前も内容は知っているな?私が彼らをしごいている間に、城の中だけでもすっきりさせるように。そうすれば、お前も仕事がしやすいだろう。さ、分かったらもう寝なさい」
「………はい。失礼致しました」
室を出てから考える。
あの年下の師範は、武人としては殺人賊の頭や茶州府将軍、果ては羽林軍の大将軍であろうとも同等以上の勝負を繰り広げる事ができるであろうほどに怖ろしく強く、そして頑なな人物だ。おそらく、状元及第であろうと州牧であろうと、あの人は彼らに頭を下げる事はないのだろう。
毅然と立つ事を、まだ心幼い司牧達に教える為に。
「師範の方が、新しい司牧よりも優秀だろうなぁ…まぁ、当たり前か」
今度の州牧で、最後の機会となるのだろう。茶州の腐敗を止める為の。
「今日中に仕事を全て終わらせろとはそう言う事か……」
明後日の着任式で、目にくまなどを作っている事など無いように。
「皆が起きたら、師範が教育係につく事を知らせねばいかんな」
司牧達は地獄かもしれないが、州官達にとっては今までより楽に仕事ができるだろう。
師範は厳しい。
厳格で、この上なく怖ろしい。故に、前州牧は師範によって罷免された。
誰よりも厳しく、権を持つ者を見張る。権を権と自覚させる為に動く。
茶州をおそらく最も憎み、しかし慈しむ人。
それが、煌騎煌星師範。
「戒李、聞いた通りだ。父様がもう了承した依頼だろうけど、伝えておいて」
「…わかった。俺も国試があるからな。面倒な事にまた藍州へなぞ行かねばならん」
「……ねぇ、紫州か茶州で、受ける事はできないの?」
「は?」
随分間抜けな声だ。そういえば、こんなやりとりも久しぶりだ。
「紅州は流石に駄目だろうけど、こっちとか紫州は?ばれなきゃ別にいいんだし。捏造の一つや二つなら大丈夫、手伝うよ?」
さらりととんでもない事を言っているが、それは魅力的な提案だった。
「………………考慮しておこう。どちらにしろ、一度紫州に帰らねばならんしな」
どちらにしろ、報告の義務は変わらない。
それに、今頃待っているはずだ。藍家の反応がどうだったかを。今か今かと、おそらく茶か酒でも飲みながら。
「……………………………」
「?あれ、どうかした?」
何だか、不穏な殺気が立ち上っているのだが。
「いや…なんでもない。無性に腹が立っただけだ」
「?」
「…とりあえず、五日以内に出立する」
「分かった」
そしてその二日後、茶州の新しい司牧達の着任式が執り行われた。
周囲の予想を見事に裏切り、十年の長きにわたって茶州を治める事になる少年と、後に国の宰相となる鬼才の青年。
「心より歓迎の意を。狼燕青、鄭悠舜。茶大官より貴方方の教育係を仰せつかりまして御座います、煌星と申します」
跪く事なく、立ったまま頭を下げる。顔を上げ、眼前にて目を丸くしている青年達に、にこやかに笑みを見せる。周りの州官達は、嬉しそうに、しかし、まるでいたずらが成功した子供のように、新しい茶州の長達に気づかれないように笑い、拍手を送った。
そして茶州の新たな時代が始まる。
最初にちょこっと入れただけです。色々な違和感は無視して読んでいただけたら幸いです。
今、秀麗は清雅と共に新しく来る臨時の吏部尚書の出迎えに行っている。何で御史がとは思ったが、どうやら長官とは知り合いで色々と話を聞いたらしく、二人に会ってみたいと言ったらしい。
優秀なら借りたいから。と。
罷免された李侍郎とあっさり辞めた吏部尚書の事実を、意外なほどあっさりと秀麗は受け止めていた。
それには清雅も僅かに目を見張っていたほどだ。
しかし、罷免理由は正当だしそう取られてもおかしくはないものだった。
一御史が反論しても意味はない。
「そういや……」
罷免という言葉で思い出すのは、茶州にいた時。
十年という長い年月の中、自分達に官吏としてのすべてを教えてくれた人。
茶州においては今も知らない者はなく、誰もが羨み、憧れるその人。
あの鄭悠舜が唯一、心底感服し白旗を上げた人間だ。
「あの悠舜がかなわなかったんだもんなぁ……」
いつも自分達を叱り、いつも厳しかった。
そして何より時折見る朗らかな笑顔が、秀麗とは違った意味で燕青は好きで守りたかった。
茶州府の誰よりも幼かったのに、誰からも『師範』と呼ばれ、時折来る二人の師範達と共にいつも何処かすべてを超越している人だった。
「師範達元気でやってんのかなぁ…」
十年一緒にいた師範はまだしも、他の二人は顔を覚えてさえいない。
何処かで会っているかもしれないと思いながらも、気づける自信がないのが現状だ。
「ねむ……」
茶州の師範は、自分の前の州牧をちょうどいた監察御史…つまり名才を使って解任させた。
その在任期間は僅か半年。
彼が茶家にいいように操られているのを見かねて、罷免に持ち込んだらしい。
あの時は、あの方の手の内にいるという事にさえ、気づけなかった。
これは、事の顛末を聞いた時に、名才が締めに言った一言だ。悔しそうに、だが何処か嬉しそうに言うその姿が印象的だった。
瞼を閉じる。
眠りに落ちていく意識とは反対に、懐かしい情景が、何処か誰かに見せてもらっているかのように、確かに色を持って動き始めた。
茶大官に伴われて、司牧として茶州へと。
その旅は、眼前にある城によって終わった。
門の前には子供が一人。
「おいおい…門番いねぇのか?」
出迎えはその子供一人のようだ。
茶大官に続いて歩き、後少しで門という時、
「うおぉぉ!」
刺客が四方八方から襲ってきた。
しかしそれらは一瞬にして地にひれ伏した。
燕青が昆を構える間もなく。
「は…?」
辺りを見渡すと、城の前にいた子供が居なかった。
そして、
「お久しぶりです、茶大官。道中お疲れ様でした」
その子供は、いつの間にか距離を縮めて目の前にいた。
手には、子供には似つかわしくない短刀という名の武器が二つ。
背筋はピンと張っていて、しっかりとした瞳が何となく印象的だった。
「久しいの。わざわざ出迎えもしてもらって、すまんな」
「いえ、仕事ですから。一服なさったら、本家へお帰り下さいませ。と、英姫様から言伝を預かっております」
「わかった」
小さいくせに、妙に大人ぶっている子供。
それが、第一印象だった。
茶を出されて一服していると、室に人が入ってきた。
藍家の人間ととてもよく似通った…少年。
「……………新しい司牧か」
「あぁ、そうだ。戒李、今帰りか?」
「三日前に来た。……茶大官、本当にそいつらで大丈夫なのか」
冷めたような涼しい目は、自分が知っている三人とはかけ離れすぎていて。接点はないと思えた。
しかし、その容姿は瓜二つだ。
「どういう意味だよ?」
少年は、燕青の睨みを軽く流した。
「……見たところ、まだ自覚の一つさえしていない」
「なっ……」
反論の声は、すぐに途切れる。少年の短刀の刃が、燕青の喉元に突きつけられていたからだ。
「……」
その物言わぬ瞳は、『自覚があるなどとは言わせない』と語っているようで。
「戒李。やめよ」
茶大官が止めるまで、その短刀は燕青の命を食らおうとしているかの命を食らおうとしているかのように輝いていた。
「………………」
「戒?そのままだと眉間の皺が固まるよ。言いたい事は分かるけど」
戒李は、依然として沈黙したままだ。
「何?そんなにあの二人が気に入らないの?最終的には主…父様だって許可したんでしょう」
しばらく、また沈黙。
戒李は、器用に二人の子供の髪を編んでいる。
「え?自分が国試に受かってからでもよかったんじゃないかって?それも一理あるけど、それじゃこっちが大変なの」
完全に独り言に聞こえるが、会話は一応会話は一応成立している。ただし、彼らの中だけでだが。
「…煌、あれらをどうするつもりだ」
やっと戒李が口を開くと、煌と呼ばれた子供は苦笑しながら言った。
「私が何もしなくても、茶大官から依頼が来るでしょう。そっちこそ大丈夫なの?藍本家に行ってきたんでしょう」
少し考えた素振りを見せた後、戒李は簪を持ちながら思い出すように言った。
「母親には会ってない。弟と…三つ子当主にのみ会ってきた。前当主に会ったら、謝られた。気にするなって言うと、嬉しそうに笑ってたな。俺が〔誰の〕使いで来たのか忘れてるな、あれは」
「あはは。そうか。仮面被って愛想笑いは疲れるでしょ?頑張ってよね。三つ子当主と弟くんは?どうだった?」
「…三つ子も弟もずば抜けていると思う。しかし、我々には及ばないな」
「………及ぶような奴がいたら怖いよ?」
「…ともかく、五日後に紫州に戻る。文でしか報告をしていないからな」
「ん、了解。茶大官に伝えとくね」
それからしばらく間をおいて、二人の子供が戒李の傍らで寝てしまった後。
室の扉が静かに開いた。
「失礼致します、師範。仕事が、片づきました……」
頬は頬は少しこけ、目の下にはくま。しかし、目にはまだ灯りが点っていた。
「才。ご苦労様でしたね。皆に休んでも構わないと伝えていいですよ。お茶はいかがかな?」
「いえ。休憩をとってもいいと伝えねばなりませんので…」
室を出ようとする才を戒李が引き留め、座らせる。
「…俺が行ってくる。ついでに、地下倉庫から冬物の掛布でも持ってこよう。さすがに寒いだろうからな」
「か、戒李師範…」
「人の好意は、素直に受け取れ」
そう言って、戒李は、そのまま室を出ていった。
そして、諦めを促すかのように茶が出される。
「……いただきます」
数拍おいて、下でどたばたと音が聞こえた。どうやら、総出で掛布を出しているらしい。
眠いのを我慢して頑張ってい眠いのを我慢して頑張っているであろう州官達の姿を想像し、苦笑する。
そして、そう言えばと煌は切り出した。
「才。先程茶大官に連れられて新しい司牧達が到着しました。州牧に狼燕青。州伊に鄭悠舜。狼燕青は正式な官吏ではないので、制限も多く初めは戸惑う者もおりましょう。正式な着任式は明後日の正午前に執り行います」
「やっと、おいでに……今度は大丈夫なのですか…?」
「いざとなったら、私がはり倒してでも仕事をやらせましょう」
その言葉に、才は飛び上がった。この目の前にいる師範は、自分が知る限り、今まで決して公に政には入っては来なかったからだ。
今は新しい司牧が着任するまで手伝ってもらっているが、本来は違う。元から、政自体に興味を持つような人ではなかったから。
「師範…」
「何ですか、その頼りない目は。情けのない。どうせ茶大官あたりが…と。噂をすれば」
窓の外には、鷹がいた。師範に文を渡すと、また空に飛び立つ。そんな様をみていると、笑い声が聞こえた。
「……師範…?」
「あぁ、すみませんね。茶大官から、新しい司牧の教育係になってくれと来ましたよ。手段は問わない、と。さすが茶大官、分かっておられる」
いえ、そう言う問題ではなくて。
心中の混乱をよそに、煌はにこやかに微笑んだ。
「才。これから私はあの司牧達の為に色々とやる事になる。お前も内容は知っているな?私が彼らをしごいている間に、城の中だけでもすっきりさせるように。そうすれば、お前も仕事がしやすいだろう。さ、分かったらもう寝なさい」
「………はい。失礼致しました」
室を出てから考える。
あの年下の師範は、武人としては殺人賊の頭や茶州府将軍、果ては羽林軍の大将軍であろうとも同等以上の勝負を繰り広げる事ができるであろうほどに怖ろしく強く、そして頑なな人物だ。おそらく、状元及第であろうと州牧であろうと、あの人は彼らに頭を下げる事はないのだろう。
毅然と立つ事を、まだ心幼い司牧達に教える為に。
「師範の方が、新しい司牧よりも優秀だろうなぁ…まぁ、当たり前か」
今度の州牧で、最後の機会となるのだろう。茶州の腐敗を止める為の。
「今日中に仕事を全て終わらせろとはそう言う事か……」
明後日の着任式で、目にくまなどを作っている事など無いように。
「皆が起きたら、師範が教育係につく事を知らせねばいかんな」
司牧達は地獄かもしれないが、州官達にとっては今までより楽に仕事ができるだろう。
師範は厳しい。
厳格で、この上なく怖ろしい。故に、前州牧は師範によって罷免された。
誰よりも厳しく、権を持つ者を見張る。権を権と自覚させる為に動く。
茶州をおそらく最も憎み、しかし慈しむ人。
それが、煌騎煌星師範。
「戒李、聞いた通りだ。父様がもう了承した依頼だろうけど、伝えておいて」
「…わかった。俺も国試があるからな。面倒な事にまた藍州へなぞ行かねばならん」
「……ねぇ、紫州か茶州で、受ける事はできないの?」
「は?」
随分間抜けな声だ。そういえば、こんなやりとりも久しぶりだ。
「紅州は流石に駄目だろうけど、こっちとか紫州は?ばれなきゃ別にいいんだし。捏造の一つや二つなら大丈夫、手伝うよ?」
さらりととんでもない事を言っているが、それは魅力的な提案だった。
「………………考慮しておこう。どちらにしろ、一度紫州に帰らねばならんしな」
どちらにしろ、報告の義務は変わらない。
それに、今頃待っているはずだ。藍家の反応がどうだったかを。今か今かと、おそらく茶か酒でも飲みながら。
「……………………………」
「?あれ、どうかした?」
何だか、不穏な殺気が立ち上っているのだが。
「いや…なんでもない。無性に腹が立っただけだ」
「?」
「…とりあえず、五日以内に出立する」
「分かった」
そしてその二日後、茶州の新しい司牧達の着任式が執り行われた。
周囲の予想を見事に裏切り、十年の長きにわたって茶州を治める事になる少年と、後に国の宰相となる鬼才の青年。
「心より歓迎の意を。狼燕青、鄭悠舜。茶大官より貴方方の教育係を仰せつかりまして御座います、煌星と申します」
跪く事なく、立ったまま頭を下げる。顔を上げ、眼前にて目を丸くしている青年達に、にこやかに笑みを見せる。周りの州官達は、嬉しそうに、しかし、まるでいたずらが成功した子供のように、新しい茶州の長達に気づかれないように笑い、拍手を送った。
そして茶州の新たな時代が始まる。
最初にちょこっと入れただけです。色々な違和感は無視して読んでいただけたら幸いです。
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