結婚は人生の墓場だと、誰かが言っていた。
女の一生は結婚するかどうかと相手で決まるのだと、これまた誰かが言っていた。
自分は今、その両方の意味を身をもって痛感している。




















時はまず一週間ほど前に遡り、カレンの行動から始まる。
珍しい事に単独任務を言い渡されたカレンが、任務終了して部下達を引き連れて戻ってきた日。報告を終えたカレンがとある目的地に向かっているところを目撃した男がいた。
ナイト・オブ・スリー、ジノ・ヴァインベルグ卿である。
「帰ってきたのか…たくましいよなぁ、あの子」
いつもはナイト・オブ・セブンの柩木スザクと任務をこなしているが、今回は単独だったらしい。
成功したらお祝いくらいしなきゃダメかな。と、スザクがぼやいていたのを覚えている。
「あれ、あっちは確か立入禁止…」
アリエスの離宮。
九年ほど前にマリアンヌ皇妃が殺害されてから、手入れはされているが誰も使っていないのが現状だ。
「何かあるのか…？」
カレンが入れるなら自分が入っても咎められないかもしれない。
そう思ったジノは、カレンに気づかれないようにそっと後を追った。










一方、カレンはジノの存在になどまったく気づかず目的の人物がいるアリエスの離宮へと足早に進んでいた。
初めての、スザクがいない任務だった。表向きには皇帝の騎士なので命令を拒否する事など出来はしない。事情を知っている人間が色々と融通を利かせてくれていた事は知っていたが、いつまでもそうはいかないのが現実だ。
帰りがけにエリア１１…否、行政特区『日本』にも寄ってきた。
エリア１１は行政特区が既に三つとなり、治安も安定している。
そのうちゲットーの区画整理をして綺麗にするという話も出ているので、住みやすさという点では良くなるだろう。
しかしそれはまるで、
「籠に入れられた鳥みたいね…」
そう思えてしまうのは、今があるという奇跡を知っているからだろうか。
黒の騎士団は自警団のような存在に変わり、特区の安全と政治や情報の面でも色々と活躍しているらしい。自分が皇帝の騎士だというのは隠して会ったが、皆なかなかに幸せそうだった。
ただ、比較的治安が安定しただけでテロは小規模だが起こっている。行政特区に反発した者達だ。最近では、ブリタニア人のテロリストもいるらしい。
「……やっぱりここか」
離宮の回廊から庭に出ると、ひとつのサンルームが見えてくる。前からあったものなのかは知らないが、あそこは自分達のお気に入りでもある場所だ。
サンルームに近づくにつれてピアノの音が聞こえてきた。曲名は覚えていないが、聞いた事はある。学校で、唱歌として先生がよく弾いていた曲だ。
曲が終わったようだ。色の違う二対の瞳が、自分を見つけて柔らかく微笑む。
「カレン！おかえりなさい。おつか……」
しかし、その微笑みは瞬時に凍りついた。言いかけた口のまま表情は止まり、動きさえも見事に止まっている。
「？なに…が…」
視線の先を辿った瞬間、その原因はカレンの脳内で瞬時に理解された。逃げたつもりだろうが回廊はまっすぐな一本道だし、あのマントは間違いなくナイト・オブ・ラウンズのものだ。青。青は……
「ジノ…ヴァインベルグッ……」
来るべき時まで大切に守り通さねばならない、隠し通さねばならない宝石を人に、しかも大貴族。知っている確率の高い人間に見られてしまった。
「ど、どうしよう…」
「……とりあえず、連絡しましょ」
オロオロとする少女を宥めて、どうするか算段をつける。
これが、すべての事の発端だった。

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