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会ったのは物心つく前の、ほんの数年で。
星刻からの話でどんな方なのかと想像した。
一年前の連行中の画に星刻が息を呑むのが聞こえ、この者にとても似ている。瓜二つだと言われ、覚えてもいない婚約者に重ねた。
そして、ゼロが行政特区日本に参加し、エリア11が…かつての日本がほんの少し平和を取り戻した時、
「本人には、言うなと言われたのですが…」
歓喜した。全てに。世界の全てに。
「会いました…。彼が、『枢木スザク』が…あの方です。あいつです…。天子様」
元より神楽耶の亡命を受け入れたのも、あの人に近しかったと聞いていたから。でも、彼女は友人として好ましくとも、己の記憶の中のあの方と、星刻の話のあの方とは似ても似つかず、親戚という事実は虚偽に聞こえた。
「本当ですか?本当に…!」
「はい。彼自身は特区設立の会談の五日前にはゼロと個人的に和解し、その日に他のナイト・オブ・ラウンズ等とブリタニアに帰還しております。次の夜会の折に、誰かの護衛で来ると言っておりましたが…」
星刻は、誰にも言わないという約束を強引に取り付けて、彼の携帯のアドレスとナンバーを手に入れた。
しかし、知りたい、会いたいと切に願う主のその姿に、教えずにはいられなかったのだ。自分も、彼と話をしたかったから。
「お会いになりますか…?」
天子は、あまり夜会などの場に姿を表さない。そういったものを好いてはいないからだ。
しかし、
ずっと会いたいと望んでいた、彼の人が来るならば話は別となる。
「行きます…!あの方にお会いしたい…!」
自分には優しく穏やかだったが、大宦官や天子に下心丸見えで近づく者達には一切の容赦なく接していたという、不思議な二面性を持っていた、自分の婚約者。そして、名を奪われ滅ぼされ、消えてしまった国の至高の王の血を嗣ぐ、稀なる人。
「枢木スザク様…いえ、枢木宮朱雀朱仁親王殿下…!」
会える。
あの人に。
「朱仁様っ!」
誰とも知れぬその名が叫ばれた時、過去を許さずとも共に歩もうと言ってくれた友人の肩が反応したのを、ゼロは仮面の下で見つけた。
エリア11が小さな平穏を見出だして数ヵ月後、中華連邦での宴に呼ばれたナナリーと共に、ルルーシュ…否、ゼロはカレンと神楽耶を含む数人を連れて中華連邦を訪れていた。
ブリタニアを瓦解するという目的は果たす。そう、スザクに誓った言葉のままにゼロは行動していた。
スザクとナナリーは中から変え、ゼロは黒の騎士団と外から変える。
その力強い構図に、ゼロは精神的にも存分に支えられ、意気揚々(?)としていた。
しかし、
「やぁ、ナナリーかい?」
「シュナイゼルお兄様!あ、いえ、宰相閣下」
シュナイゼルの出現で一気に機嫌は大下降。どっかの海溝の底まで低下した。
その様子が目に見てとれたカレンが、シュナイゼルの後ろにいる人物の一人に目を向け、ゼロを小突く。
「スザクがいるわよ…」
そう。シュナイゼルは護衛として、側に控える参謀達の他にスザクを同行させていた。
確かナナリーから聞いた話では、数日前まで任務で一昨日本国に帰還したと聞いていたのだが、プライベートで引っ張り出されたのだろうか。ラウンズの服ではなく、きちんとした姿勢がスマートに見える、スーツだ。
「スザクさんも、お久しぶりです。お休みではなかったんですか?」
「お久しぶりです、殿下。ア…アームストレイム卿達にマフィンを作っていたら、いきなり言い渡されまして。味の感想も聞けずに連行されてしまいました」
「まぁ!」
「枢木卿、頼むからその話は後に。流石にアームストレイム卿の怨みがましい目は怖かったからね。後で何か持たせるよ…」
シュナイゼルとナナリー、そしてスザクが話す場は浮いており、色々と注目を集めている。その中でも一番注目されているのがスザクだ。何故だろう。上座に控える大宦官達の顔が、常の白から僅かに青くなっているように見える。
それに首をかしげていると、一人の青年が近寄ってきた。星刻だ。
てっきり挨拶かと思ったが、星刻はシュナイゼル達への挨拶もそこそこに、スザクの腕を掴む。
ちなみに、数日間とはいえ協力者だったこちらには一瞥もくれないその姿勢にカレンは眉を潜め、神楽耶は何故か…ハッとした顔で星刻とスザクを凝視している。
「申し訳無いが、この者を少々お借りしてもよろしいでしょうか」
「枢木卿を?別に構いはしないが…」
何故?と聞こうとしたが、シュナイゼルの言葉はスザクによって遮られた。
「話なら後でも構わないだろう」
「いや、そう言うわけにもいかん。こちらにお出でになると言い始めたんだ。お連れすると言ったのに…」
少し疲れた風の星刻に、スザクは眉を潜めた。
「お前は…相変わらずあの子に甘い。教えたのか」
「お心を察したんだ。とりあえず来てくれ。ここに来られるとお前も、事情を知っている者にも不本意になる」
「……了解。シュナイゼル殿下。申し訳ありませんが、しばらく席を」
その時だった。奥からざわめきと共に、小さく走る音が聞こえ、
「朱仁様!」
その叫びに星刻がため息をつき、スザクの肩が小さく反応した。
叫んだのは一人の少女だった。
ナナリーと同じくらいかそれより年下の、可愛らしさが光る少女。
「まぁ!」
(何故か)少し青ざめた顔の神楽耶が少女の行く手を阻もうと駆け寄ろうとしたが、少女はその前にまっすぐに、スザクに抱きついた。
「お久しぶりです、朱仁様!覚えておられますか?」
頬を染めながらそう言い募る少女に、スザクと星刻はため息をついて膝を折る。何だか諦めモードだ。
「今、誘われて行くところでしたよ。お待ちになっていても良かったのに」
「だって、朱仁様にお会いするのは本当に久しぶりです!星刻から聞いて、いてもたってもいられなくて…!」
「はい。落ち着いて。走ってきて息が上がっていますよ。皆も見ておられる」
優しい声音に、ナナリーが息を呑む。少女に心当たりでもあるのだろうか。そもそも、『朱仁』とは誰だ?
「ナナリ…」
「こうなれば致し方ない。さ、とりあえず行きましょう。周りの混乱が目に見てとれる」
「あ…は、はい。あの、朱仁様…」
「はい。どうしました。シュナイゼル殿下から許可はいただいたので、少しならお話は…」
スザクは少女の目線に合わせたまま、穏やかに笑む。
その笑顔に、少女は頬を染める。
「さすが天然…」
カレンの呟きにナナリー以外の誰もが頷く。
「行くぞ、朱仁」
「はいはい…」
星刻に促され、スザクは自分に向かって伸ばされた手を取って少女を抱き上げる。
「兄様!」
神楽耶の不満そうな声に嘆息して、スザクはその頭を叩く。
「私が手を伸ばしても抱えなかったのに…」
「神楽耶は暴れるから遠慮しただけですよ」
そう言って、星刻の呼びかけに応じて歩く。
その姿をほとんどの人間が呆然と見つめていた。
