突然だが、コーネリアには実に苦手とする人物がいる。
その筆頭は義兄、シュナイゼル。別の意味で、オデュッセウス。唯一の義姉はある意味論外。
そして・・・



『まさか、エリア１１着任早々、この私に連絡を取って下さるとは思いもよりませんでした。はじめまして、コーネリアエリア11総督殿。貴女が総督となられるのは珍しいことですが、麗しい女傑が政治の相手とは嬉しいですね。むさい男は見あきましたし』



中華連邦においては、天子の夫として常に傍らにあり、彼女を神輿ではなく、真の中華連邦の支配者とするための努力を惜しまぬ、ユーラシアの『眠れる不死鳥』。柩木宮朱雀朱仁。
シュナイゼルも一目置く優秀な人間であり、大宦官達さえいなければ、彼と彼が信頼し一目置いているという官によって、中華連邦は現在よりも強力で、手ごわい相手となっていたことだろう。
実際、七年前から、中華連邦への強硬政策は上手くいっていない。
「そのような物言いはやめられよ・・・。今回は、ただのご挨拶ではありません」
『おや、物騒な。・・・あぁ。何度言われようと、私は愛する妻と友のためにある身。貴女の妹のご要望にはお答えできませんよ。物でもありませんので』
「・・・・・・・・・その節は・・・本当に申し訳ありませんでした」
昔、ブリタニアとの会議に来ていた彼をユーフェミアが見つけたとき、会議中の休憩日で私服だったせいか、ブリタニアの軍人とでも思ったらしく『あの方とお話を！』・・・等など、色々な事を言ってきた事があった。
彼は賓客だが、申し込んできた諸々の貴族達とのお茶会もすべて断っていた。護衛をとつけられた自分の先達に当たるエニアグラム卿に無理やり引っ張りだされ、ラウンズ達とのお茶会をしていたというのは聞いた覚えがある。しかしそれは会議の前で、どうにも、彼は仕事人間だった。
政治に携わる二人の義兄とはよく話をしていたし、父、ブリタニア皇帝が招いた夕食の席では、冗談を交えながら和やかに過ごしていたという。
とにかく、ユーフェミアの事もあり、コーネリアは朱仁が苦手だった。
『彼女も、やっと政治に携わる気になったとか。副総督の手腕も期待しておりますよ。そちらが一定の成果を上げてくだされば、近頃煩い、こちらに亡命してきたバカ者どもを海に放り投げますゆえ、拾いに来て下さい』
「！」
それは、意外な答えでもあった。『一定の成果』・・・ゼロの事以外にはあり得ないし、一気に治安の悪化が進んだエリア11の立て直しの事もある。前者をコーネリアが、後者をユーフェミアが。
朱仁は、己だけに結果を求めているのではない。政治の世界に飛び込んだばかりの、未熟としか言えない妹にも、それを求めているのだ。
あぁ、そうだ。彼の当たり前のように、その口から出てくる優しいようで厳しい残酷な言葉が、コーネリアは苦手だった。
しかし、ユーフェミアは自分達が補佐し、助けていけばいい。ダールトンも、己の騎士、ギルフォードもいる。
そう考え、とりあえず礼を述べて通信を切ろうとしたその時だった。画面の向こう側から、鈴のような声が聞こえてくる。
『・・・朱仁・・・まだ、お話し中ですか？』
『おや、通信室に来るとは珍しいですね、天子・・・。あぁ、そうだ。こちらへ。天子からもご挨拶を。エリア１１に新しく赴任された、コーネリア第二皇女殿下です。総督をなさるとのことですので、総領事館との付き合いも長くなるかもしれませんし』
朱仁の声と共に、画面に一人の少女が写る。
『はじめまして・・・。天子と、申します。コーネリア総督』
「こちらこそ・・・。着任早々、非公式とはいえ、お会いできて嬉しいです」
妹よりも小さい、ただの子供だ。しかし、ユーフェミアに自分達がいるように、彼女にも朱仁達がいる。
『それでは、そろそろ・・・。着任早々でお疲れでしょう。長話をして、失礼しました』
「いえ、こちらこそ・・・礼を、言わせていただく」
画面が黒く塗り変わる瞬間、朱仁が天子を見て、優しく、朗らかに笑う画が目に入る。それは、自分が愛する妹を見るのと同じ、慈しむ目だ。
「・・・・・・彼のことをあまり知らないだけで、苦手、というわけではないのかもしれないな・・・・・・」
自分と同じ感情を、誰かに注ぐ彼を見て、彼を苦手な部類の対象から外しかけている自分が見えた。



星刻が出てきませんが、コーネリアと朱仁で。ユーフェミアにとって、朱仁はある意味（？）で初恋です。

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「平和ですねぇ……」

茜色に染まる空を見上げ、そして、荘厳な建造物を見る。

現在事情があって、自分は臨時にここの住人だ。

「朱仁様。そろそろお戻りを」

スッと後ろに現れた警備の人間に頷いて、朱仁は促されるままに歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

星刻がその少年に出会ったのは、相手をしてくれと引き合わされた時だった。

そんなに重要な人物にも偉い人間にも見えなかったが、過ごす内に自分と同じくらいのこの少年が膨大な知識と、有り余る体力を持つ事が判明した。

おかげで滅多に行けない山頂の寺院や遠く離れた山岳地の修行場などに、途中まではヘリなものの、後は自力で到達するという変な快挙を成し遂げてしまったのである。

「いい天気だな…そういえば、中華連邦の市街地は見たことない…」

「また今度、になるだろう。大宦官の皆様も、貴方の行動にあわてふためいていた」

それはそれで素晴らしく見物な光景だったが。

「…敬語。そちらがそうならこちらもこれで喋りますよ、星刻」

その言葉に慌てて直す。同年代の少年に敬語を使いきれていない星刻に、朱仁は気を使ってくれたのか否か、公式以外では敬語はいらないと言ってくれたのだ。朱仁は普段も癖のようなもので、常に敬語だ。しかし、まるで公私を切り離すように、朱仁は別の人格のような性格を持っている。

「…冗談だ。新しい命と対面したらさっさと帰国か…父上達は仕事だとわかってるからいいとして、あいつには何か買うべきか」

「確か…妹、だったか？」

朱仁には父母、祖父。そして年子の妹がいるらしい。

やんちゃで扱いに困る。というのが朱仁の兄としての評価だが、星刻からみれば朱仁も、やんちゃ…悪く言えば『狡猾』だった。

「大宦官を手玉に、か…そんな噂が流れている。お前に言い負かされた大宦官達の地団駄を踏む姿は傑作だったと」

「それは是非見てみたい。今度、写真でもいいから送ってくれ。予定日通りに生まれるならば、俺は三日後には日本に帰る」

天照の陽を受け継いだ、暁降ちの子。

それが、朱仁が国で呼ばれる言葉。

天照の光を受け継いだ、真夏の子。

それが、朱仁の妹が国で呼ばれる言葉だ。

二人が共にいる様は兄妹というよりは、まるで親子。先陣を切って走る妹を苦笑しながらたしなめる。それは不思議な光景だった。

「…女性であらせられたら、どうするんだ？」

「いつかは、結婚するんだろう…優秀すぎて邪魔だ、疎ましい。なんて言われてはいたが、まさか婿に行けとはね。ま、ブリタニアじゃなくて良かったよ」

「……それは、俺も思う」

その呟きに、朱仁が意外そうな目を向ける。

星刻はそれに笑った。

「俺は、貴方がここに来た理由である天子様を守ろう……この命を賭けて、この国のために…貴方の、存在意義のために」

生まれてくる天子が女性なのは、検査でほぼはっきりしている。

中華連邦はこれで、日本が疎んだ最高の血筋を持ってしまった最高の頭脳を招き入れる事になる。

しかし、彼の心を守る者はあまりに少ない。

ならば、自分が。

生まれいずる天子と共に。

それは、はじめて彼が抱いた『忠誠』でもあった。

一方、敬語じゃなくても良いと言ったのに敬語になった星刻に目を丸くしながらも、その意図に気づいていた朱仁はゆっくりと微笑んだ。

「どうせなら、忠誠を誓ってくれる臣下よりも友人の方が私には嬉しいですよ。星刻」

彼になら。彼となら。

日本では得られなかった、共に道を歩いてくれる者となり得るのかもしれない。己を『己』として扱ってくれる、友になれるのかもしれない。

「貴方となら、貴方になら、天子を任せる事ができるのかもしれません」

それは、星刻のみならず、中華連邦にて天子に忠誠を誓う者にとっては、一番聞きたい人からの、最も素晴らしく、誇れる称賛の言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三日後、予定日より一日遅く生まれた彼らを繋ぐ切っ掛けとなった小さな赤子が生まれた後、朱仁は己の故国、小さな海を隔てた向こう側の島国へと帰っていった。

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去っていく車。

後ろのガラスから不安そうにこちらを見ている少年。

瓦礫と荒野。

「…さようなら」

ポツリとそう呟くと、車が完全に見えなくなった後、その場にたった一人存在していた少年はおもむろに頭に手を伸ばし、勢いよく髪を引っ張った。

髪の色は同じなものの、まるで尾のように背中に流れる、長い髪。

その手にあった偽りの頭は瞬時に切り刻まれ、風へと流された。

「来たか…？」

そう呟く。

少し時を待つと黒塗りのバンが目の前で停車した。

出てきたのは、自分と同じくらいの少年。

「朱仁！」

「…遅かったな。大使館云々はまだ先だろうから早くなると踏んでいたんだが…」

「渡航手続きに手間取ったんだ。すぐに帰れるようには手配した。荷物はそれだけか？」

少年は、足元にあるリュックを指す。

朱仁、と呼ばれた少年はその言葉に頷いた。

「なら、乗ってくれ。急ごう」

「了解」

車に乗り込む少年に続き、歩き出そうとした少年はふと立ち止まり、先程車が去っていった方角を見て瞑目した。

「さようなら、日本…そして、枢木スザク」

「朱仁、早くしろ！」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皇暦２０１７年。

中華連邦にとって隣国たる日本がエリア１１が七年という月日が経った。

そんなある日の、何気なく過ぎるはずだった時間に、一条の闇がさした。

「シンジュクで事件？」

「そう。シンジュクゲットー壊滅命令が出されたと大使館から緊急に」

大宦官の一人が、口許を隠しながら妖しく笑った。

「どうにかなさいますかな？」

「いや、捨て置いてください。これでエリア１１はまた永世エリアへの昇格から一歩遠退いた…か。…キュウシュウ周辺の警備隊に警戒レベルを一つ上げるようにお願いしといてください。念のために」

反発心からテロが多発することだろう。余計なとばっちりは喰いたくない。

「もう既に。速報は？」

「今から仮眠なので、嬉しいニュース以外はご遠慮します。三時間後に起きますから」

その二時間後、共に働く文官一同も含めた者達に、『嬉しいニュース』で起こされたことは…言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クロヴィス殺害…か。来週のブリタニア訪問時には何か贈るべきですかね」

「花でも手向ければ十分かと。おや、どちらへ？大使館から…」

「どうせ、ブリタニアの純潔派が代行に立って終わりです。シュナイゼル宰相にメールでもして、次の総督の情報でもいただきます」

分厚い経済学書を片手に、朱仁は人の良さそうな笑みを浮かべた。

「亡命してきた旧日本政府の者達がうるさくしないようにしておかないと、後々面倒です。処分のいい方法も考えておいてください」

パタンと扉が閉まる音と共に、室内に取り残された者達はため息をついた。

「完全に決別しておられるなぁ…」

「むしろ、エリア１１の混乱ぶりを楽しんでおられるようだが…？」

「それでこそ朱仁様だろう。さぁ、仕事に戻れ！」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部下の一人がポツリと呟いた台詞通り、朱仁は右手に持つ本を肩に置きながらクツクツと笑っていた。

とても上機嫌である。

「は～…おかし」

世界の、ゆっくりと動いていた歯車が、オイルでもさされたのか急速に動き始める音が聞こえた。

「動き出したのはＣ．Ｃ．か？それともＶ．Ｖ．？」

どちらにしろ、このまま行けば中華連邦へのとばっちりは避けられない。

「朱仁！」

「あぁ、天子。どうかなさいましたか？」

この国における唯一無二の存在が伸ばした腕をそのまま受け取り、自分より上の視線になるように抱き上げる。

「星刻が帰ってくるのでしょう？お迎えに出ようと思って…」

「そういえば今日でしたか。そうですね。一緒に出迎えましょう。星刻達は疲れているでしょうし、お茶会は明日にしましょう」

星刻。

それは朱仁にとって、もう一つの唯一無二たる親友だ。

彼なら、天子の隣に立たせてもいい。そう思えるくらいだ。

一人の帝に一人の伴侶。というものは、ブリタニア同様、ここ中華連邦にも存在しない。

朱仁は天子の夫だが、同時に中華連邦を動かす能吏の一人だ。

大宦官をおちょくれるたった一人の人間。

昔から、彼を呼び表すこの代名詞は消えない。

「さて、火の粉が来るとわかるまでは、静観させてもらおうかな？」

眼鏡がキラリと光を反射する。

エリア１１で反逆の黒き皇子が、魔神が目覚めた日。

雅なる大陸の宮殿では、紅き帝が穏やかな笑みを浮かべていた。

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「やばい！」

プライベートルームへの入室開口一番、スザクが言ったのはそれだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やばいやばいやばい！」

「あんた…落ち着きなさいよ。みんなが困ってる」

「ルルーシュに見られた！」

「…はぁ！？」

カレンは思わず身を乗り出した。最後の最後でこうなるか。しかもよりによってルルーシュ！

「どうすんのよ！」

「俺が知るか！陛下から警備交代の命を受けてた時にルルーシュの野郎が振り返ったんだよ！」

そうじゃなかったら見つかるか！物陰に隠れて見えないようにしてたのに！

「どっちにしろダメじゃない！」

最悪！あのピンクのお姫様じゃなくてよりにもよってあのスザクバカに！

「え、ちょっとスザクバカってなに」

「あんた（ジノ）は黙ってて！」×２

二人の剣幕に、ジノは身を縮こまらせた。何もそんな怒鳴らなくても。

そんな時、ジノの携帯が音を立てた。ノネットからだ。

「はい？」

『何とか病院に行かせたぞ。スザクに会わせろとうるさかったがな』

「え…？」×３

ノネットの声は疲弊しているようだった。相当なものだったに違いない。

『カレンの事はバレちゃいない。大丈夫だろう』

「あ、そう…」

別の車に乗り込んでいるのだろう。普通にカレンの名を出している。

『あと十分くらいで到着だそうだ。なるべく早めに戻る』

「りょ～かい」

通話を切り、ぐったりとしている二人を見る。

「…だって」

「い、一難去った……」

「バカね。見つかったら意味ないじゃない…」

のそりと起き上がり、二人はやっと椅子に腰を下ろした。

「まずは、この先の対策か…」

「いっその事、国外への任務を…」

なんて話し出した二人に、ジノはため息をついた。この二人は根が真面目すぎる。

「俺なら視察任務が入ってるけど…明日から」

「それ回せ！」×２

妙な迫力に後ずさりしつつ、ジノは拒否を表す為に首を横に降った。

「カレンは兎も角スザクはイヤだろうし」

「任務内容を聞いてから判断する！」

「何なら別行動にすれば…って、スザク。あんたハワイでの軍事演習の指揮が入ってなかった？」

「あれ二週間後！入りを二日早めても一週間暇だし…」

それは絶対にイヤだ。

目で脅す二人に、ジノは壁際に追い詰められた。

「だから、スザクがイヤだろうって…！」

「……ジノは、私が任務を聞く事さえ許しては下さらないのですね…」

「えっ？フ、フレイヤ！？」

何でそこでそうなる。とはジノは言えなかった。

いつの間にかカツラを外しこちらを見上げているフレイヤがいたからである。

「フ、フレイヤ、あの…」

「確かに、無理に聞こうとした私も悪かったと思います。ですが、だからと言ってそこまで言わなくても…」

「や、あの…」

泣いている。あのスザク、否、フレイヤが。

「私が行きたくない場所など、とうに見当はついています！それでも教えて下さらないなんて……！」

「わっ、分かった！教える、教えるよ！」

そんな二人のやり取りを、いつの間にやらカレンは一歩下がってみていた。

相も変わらず素晴らしい演技力だ。

「エリア１１に、特区の視察だ。フレイヤはあそこが…」

「行きます」

嫌いだろう。と言いかけて、その言葉にジノは止まった。

「…え、」

「視察だけと言いましたね。軍事演習に行くついでにコーネリア姉上様の顔でも見に行きます。いい加減腹をくくらねばなりませんし」

「じゃ、私は他のエリアの視察に行こうかな。特区の設立準備してるところがあったわよね？エリア１１は…」

「あ、トウホクエリアに新しくできるらしくて、メインはそれなんだ」

「では、ジノはそれ優先で。カレンは他のエリアの特区設立準備を視察して警備体制の支持…で、いいですかね。準備してきます」

「あ、うん…って、陛下には！？」

フレイヤは、さっきの涙が嘘のように精力的に動こうとしている。

ちょっと待て。俺のさっきの葛藤はなんだったんだ！？

「兄上と父上のおかげもあってここまで苦労したんです。事後承諾でもぎ取ります！」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、戻ってきたノネットの目に、何とか事前承諾にしようと説得するジノと断固拒否しようとするフレイヤ。

それを見て呆れているラウンズの面々が入ってきたのは、言うまでもない事だろう。

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コメント、ありがとうございます。楽しんでいただけたようで嬉しいです。天子の動かし方がまだ良くわからないので、たきつけ役も用意しました。ゼロはいつでも可愛い妹のサポーターです。それ故に周りに不審がられていますが・・・。
後編、色々と怒涛の展開になっている気もしますが、楽しんでいただけたら嬉しいです。










「天子…いけませんよ。軽々しく公に出ては」

「朱仁様…」

周りには大宦官はいない。三人だけのお茶会。

「星刻も…『朱仁は死んだ』と言う公式発表をどうして信じてくれなかったんですか…」

「飾りになれない有能さを持つゆえに疎まれ、親王でありながら婿に出された人間には言われたくはないな」

「…」

『枢木宮朱雀朱仁』。

それは今から十年前、心臓病によって死んだ、とされていた日本の次の王とされた者の名だった。

「ブリタニア皇帝は…」

「自分が八歳の時に、外交の場で二、三度お会いしましたね。一年前にお会いして、私だとわかったようでした」

『俺』と言うスザクは、ブリタニアから来た二人の子供の為に在った。

『僕』と言うスザクは、罪を犯した今の自分の為に在る。

 

 

 

 

 

ならば『私』は？

 

 

 

 

 

「お会いできて、お話しできて嬉しいです。朱仁様」

「ゼロを領事館に入れたのはお前と再会する切っ掛けとなったことで不問だな。大宦官のあのような顔は久しぶりだ」

茶器を鳴らす。

再会を祝う。

「…やはり、『幼馴染』とか『親友』っていうのは、君達みたいなことを言うのでしょうか」

友であり、未来の主従。

兄妹のようでありながらも、婚約者。

「お帰りなさいませ、朱仁様」

「…お帰り」

その言葉に、スザクは…朱仁は苦笑した。

「私は今、一応ブリタニアの人間ですよ…？」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だったの……？」

嵐のように過ぎ去った三人を見て、カレンが呟く。

すると、神楽耶が悔しげに叫んだ。

「あぁ、もう！折角隠してきたのにこれじゃあ水の泡じゃない！白を切りなさいよ、お兄様のバカ！」

「か、神楽耶さん…？」

九年前に交流のあるナナリーだけが、かろうじて問いかける。

「あの方は…」

「中華連邦の主、天子様ですわ！ナナリー、貴女、ボケッとしているとお兄様をとられますわよ？開き直ったお兄様なら、ブリタニア皇帝に連絡をとって戸籍の削除と復活くらいしそうですもの！」

「戸籍の…？」

ゼロの呟きに、神楽耶が満面の笑顔で応じる。全くもって素晴らしい身代わりの早さだ。

「どういうことですかな？」

「あら、ゼロ様ともあろう方が何も知らなかったんですのね？私は皇家ですが、本当の名は皇宮神楽耶咲子、と申しますのよ？それで昔はサクヤと呼ばれた時期がありましたわ。お兄様も同じです。枢木の家にいただけで、お兄様の真名は枢木宮朱雀朱仁。日本が誇る親王殿下だったんですのよ？…まぁ、体力バカのきらいも多々ありましたけれど」

そして、カツカツとナナリーの前に立つ。

既に周りの事などお構いなしである。

 

 

 

 

 

「中華連邦の天子様は、朱仁お兄様の婚約者です！奪われますわよ、バレた今なら婚約者にだってできるのに！」

「…おや、解消されたのではなかったのかい？」

スザクが朱仁だと知っていたシュナイゼルは、スザクが以前『うやむやのまま自然消滅かな…』と言っていたのを覚えていた。大体、日本がなくなった時点で……

 

 

 

 

 

「あら、続行中です！中華連邦からもこちらからも婚約解消はしていませんし、去年、確かめましたらそのままでしたもの！」

 

 

 

 

 

ナナリーの肩が揺れる。それを自然な形で支え、ゼロ…否、ルルーシュはスザクに同情した。

シュナイゼルの口ぶりからしてスザクは自然消滅したと思っているのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、朱仁もまた、同じような事実を突きつけられていた。

「…え、そうだったんですか？」

 

 

 

 

 

肯定する二人の笑顔に、固まりながら。

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