「なぁ、スザク」
「なに？」
ナナリーを助けてアヴぁロンへと着艦し、ナナリーを下ろしていると、後ろからジノが駆け寄ってきた。てっきり紅蓮二式の事かと思ったが、
「中華連邦の総領事館で会った男とさ、お前知り合い？速く行こうとしてんのに、お前、何かあいつに言ってたじゃん」
意外だった。まさかみているとは。
「スザクさん？」
「え、あ、いや・・・」
ナナリーまでもがこちらを見てくる。早くミス・ローマイヤ預けなければいけないのに。
「ナナリー総督に隠し事か？お前」
「・・・私達にも？」
紅蓮にやられてかなり不機嫌なアーニャまで参戦。慌ててあたりを見渡すが、皆作業に追われているしこちらを見た数人からは謝るように手を合わされた。主に不機嫌なアーニャの部隊の整備班だ。
「・・・・・・・・・わかったよ」
ナナリーに隠し事。
している身でそれは今更だが、これ以上それを重ねるのは不本意だ。しかし、それをどう話そうか。
「・・・・・・・・・昔、中華連邦に許婚がいたんだ。俺より年下で、えっと・・・ナナリーくらい。日本がエリア１１になって有耶無耶になったから今頃消滅しているだろうけど」
色々とはしょる。それが一番いい方法だ。
しかし、周りはやけに沈黙している。
首を傾げつつ、補足。
「彼はその時に会った。お互い体力が有り余ってる子供時代だったから、中華連邦の山頂の寺院まで山登りしたりロッククライミングに、武術に・・・・・・」
思えば、あれが体力馬鹿といわれる始まりだった。
「・・・・・・・・・え、っと・・・スザク、ちょっと来い」
「え？着替えないと・・・」
「そうだな。着替えながらお前にしっかりと色々と教えなきゃいけないことがある。膝を突き合わせて話をするぞ。アーニャ、総督をよろしくな！」
ナナリーは呆然としてる。アーニャは、常とは変わらないが少し瞳が呆れている。
「あ、ナナリー・・・総督！また後で！アーサーが総督府で待ってるから連れてくよ！あと、ちょっと渡したいものがあったから！」
「あ、は、はい！また後で！」
その言葉にナナリーは浮上している。本当に天然たらしだな。と思いつつ、ジノはなおもスザクを引きずる。





天然たらしの癖に女心を理解していないとは、ただの爆弾にしかなりえない。
しっかりと言い含めねば。





そう決意しつつ、ジノはスザクを引きずって更衣室へと入っていった。







スザクが渡したいものは、学園の倉庫に置きっぱなしにしていた、ルルーシュからナナリーへの贈り物やら何やらの数々です。深夜に学園にいたのはそれを運び出すためという辻褄あわせでお願いします。

この後電話やゼロの事について詰問され、スザクがどう答えるかは・・・考え中です。いっその事続きを書こうかと思ってますが、何より、ブログ連載を・・・。もうしばらくお待ちください。

close△

「えっと、その…お、お疲れ？」

「ほ…他に、言うこと…ないんですか…」

そうは言われても。

ジノは頬をかき、肩で息をしているスザク…否、フレイヤを見下ろした。

これは言われても反論されると思っていたのだが。

「…可愛いよ」

「なっ……っ…」

口をパクパクとしながらもようやく立ち上がったフレイヤのワンピースについている埃を落とし、ジノは笑った。

「ほんとの事だし？」

そう。フレイヤはあまり人前ではあまりはきたがらないワンピースというかパーティードレス系のものをはき、薄めのショールを羽織っている。

「本当に久しぶりに見たな…」

初めて『フレイヤ』を見た時も、こんな感じの服を着ていた。

「着せられたんですよ…」

この格好ならバレないからと、あれからさながらファッションショーのように着せ変えられメイクをさせられ髪をセットされと大変だったのだ。

解放されたのはジノが来る時間だからと、カレンと入れ替わるように出迎えに行かせられたつい先程の事。本気で逃げ出したくて高めのヒールの靴だと言うのに全力で走ってきた。

一度も転ぶ事も躓く事もなく、二階から中庭に降り生け垣を越え、なおかつ服に傷一つつけなかった自分に称賛を贈りたいくらいである。

……つけたら多分、トゥエルブの笑顔が怖い。

「…じゃ、いきましょうか」

「うん…って、ちょっと、おい！」

自分の腕をつかんで歩きだしたフレイヤに苦笑しながら、ジノはフレイヤの隣に追い付いた。

「…なんか、ノリノリだな」

「あら、いけませんか？」

こんな時に誰かの目を気にせず、堂々と歩けるのだから。

そんな様子を、上から見ている人物が一人。

「今の…」

人並み外れた身体能力。あの笑顔。

しかし、『彼』は男性だ。あんなに髪は長くなかったし、光によって一瞬見えた目はオッドアイだった。

「…気のせいね」

close△

さて。ナナリーが病院に移れば平穏な生活が戻ると言うタイムリミットまで、あと二日はある。

無理矢理やりくりしたシフトの為に生じた任務も終了したスザクは、まだ誰かいるだろうかとラウンズ達が集うプライベートルームに向かっていた。

が、角を曲がろうとした瞬間に察知した気配に慌てて壁に寄り添って隠れる。

これは、もしかしなくても…

（ルルーシュ～！！）

部屋から出ないようにという事を言われていたはずだ。それなのに何故ここにいる！

直線距離で言えば１０ｍもない…と、思う。

こちらに来そうな気配を察知したスザクはとっさにマントをとり、迷った挙げ句に自分の頭に手を伸ばした。

「見当たらない…やっぱり国外に任務に出ているのか…」

今のところ見つかっていないと言うのをいい事に、ルルーシュは堂々と皇宮内を歩き回っていた。

まぁ、例え見つかったとしてもギアスをかければいい話である。

ふと足音が聞こえたので物陰に隠れると、目の前を長い茶の髪の女性が通りすぎた。

（あれは……）

今日見た、ナイト・オブ・ラウンズの服だ。女性で把握しているのはトゥエルブとナインの二人だけだが、意外と若い。自分と同じくらいだろうか。

そう考えていたルルーシュは、その女性が立ち止まったのに気づかなかった。しかしそれも一瞬の事。

女性はすぐに足を進めていった。

で。

「疲れたぁ～…」

「よくまぁ……カツラを外してとはいえ目の前を歩いてきたね」

「本当に」

ルルーシュの視界から外れた瞬間物凄い勢いで走ったスザクは、精神的な疲れからテーブルに突っ伏していた。

時折人外とも言うべき探査能力を発揮するルルーシュには、気を使いまくっても損する事はない…のだが、疲れる。

トゥエルブが傍らに紅茶をおき、ぐったりとしているスザクに苦笑する。ナインは呆れ顔だ。

「………他は、」

「任務に行った奴もいるし、もう部屋で休んでる奴もいる。あたしらはあんたを待ってたんだよ」

「え？」

紅茶を飲み干してカタリとカップを置くと、次の瞬間いきなり脇に腕を入れられて立ち上がらされた。否、持ち上げられた。

「リッ、リオギス！？」

「……ワルい。逆らえねーわ」

今後の展開が読め、せめてもの抵抗とスザクは力の限り叫んだ。

close△

「展開は予想通りか、フレイヤ」

「父う…、陛下。執務はどうなさいました？」

ジノが出ていったドアとは違うドア、つまり隣室の皇帝の執務室に通じるところから現れたのは、隣室のみならず世界の三分の一の主であるブリタニア皇帝だった。

「私が処理する案件はすべて処理した。問題はない」

「…………そうですか。では、どうぞお座り下さい。今お茶を淹れますから」

席を薦められ、皇帝は先程までジノが座っていた椅子に腰かけた。

「陛下の先日のあの行動の原因は…ルルーシュ達から、私を遠ざける為の布石だったのですね」

「何故、そう考える」

そう。何も知らない者ならば皇帝が仕組んだ政略結婚にしか見えない。とはいえ、ジノがフレイヤに一目惚れしたと言う事実は宮内では周知の事実だ。

「だって…そうだとしたら陛下、貴方はまず私の二十歳の誕生日に同時に発表するでしょう。その方が色々と目立ちますし。そうなれば、私に相談しなければならない事もあります。でも、せずに兄上様方と急いでお決めになった」

何らかの問いはあってもいい案なのに、それが全くなかったのはそちらも慌てていたという証拠になる。

「……では、政略結婚であるという事実はどうする」

「あら、ジノが私やカレンに親しくしてくれているとワンからお聞きになられていたのでしょう？ジノが私を見てしまったのをこれ幸いとしただけではございませんか」

「……」

沈黙で返す皇帝…否、父の姿に、フレイヤは楽しそうにころころと笑った。

「それに、政略結婚ならば父上は真っ先に母上の墓前に謝りに行くでしょう？ここ数ヵ月、黄昏の間に赴く事はあれども母上の墓に外出されたとは聞いていません」

「……」

完全に敗北である。ただ黙って紅茶を飲む父に、フレイヤは苦笑した。

この人の不器用な優しさは何から何まで分かりにくいのだが、見つけ方さえわかれば造作もない。

だからフレイヤは、父の優しさが好きだった。

「いずれ避けられなくなる事だが…今回は好きにしろ」

いずれは、ルルーシュ達に『フレイヤ』の存在も知れる。だったらさっさと済ませた方がというのが理由だったのだが……早すぎたのかもしれない。

「あちらが予測不能の動きをすればどうなるかわかりませんが…頑張ります」

にこにこと笑う姿に、皇帝は既視感を覚えた。あれは、何処か悟りきって楽しんでいる顔だ。諦めているとも言う。

「……あれに似てきたな。フレイヤ」

「あら、そうですか？」
ふふふと笑う姿に皇帝はかつて隣にいた后妃の姿を思いだし、淡く笑ったのだった。

close△

「スザクが任務中とはな。会えるように取り計らってほしいと伝えておいたはずなんだが…」

「いきなりでしたものね。お姉様だって私には一言もなしに、『柩木は昨日、特派と共に本国へと異動した』ですよ？ひどいと思いませんか？」

用意された部屋はかつて住んでいた離宮の一室を思わせるようになっていた。当たり前だが離宮への滞在許可は降りず、部屋からの外出も許されていない。

「明日には皇帝と謁見して…ナナリーの治療は？」

「速ければ三日後からと聞いていますよ」

つまり、スザクと会うとしたらそれまでの間だ。しかし任務となると勝手が違う。元々皇帝の騎士団は世界中を飛びまわる人間の集まりだから、国外に出ている可能性が出てくる。

「お兄様、お姉様。スザクさんはお仕事が…」

「わかっていますよ、ナナリー。でもせっかく来たのに、スザクに会えないなんて嫌じゃありませんか」

「確かにな」

ユーフェミアの言う事も最もだと、ルルーシュは頷いた。多勢に無勢となったナナリーは押し黙る。こうなると、二人に意見するのは難しい。

「スザクもバカだ。特区設立を喜んでいたのに本国に行くなんて」

自分達二人がそろえば怖いものなんて何もない。その言葉を再び実現するチャンスだったのに。

「まさかナイト・オブ・ラウンズとはな」

絶対に連れ戻そう。そして、あの時の真偽を、何が真実なのかをもう一度。

「そう。ナナリーが…」

「凄い意外なところから聞かれたんでビックリしたけど。……あ、これ美味いな」

「…俺の分もどうぞ」

よく食べるなぁ。と感心半分呆れ半分で、スザクは自分の分のケーキをジノに差し出した。ちなみに現在地は皇帝陛下が執務を行う部屋の隣。許可をもらって現在ナナリー対策を検討中である。

「厄介なのが上の二人だけなら、あの子、じゃなかった。ナナリー殿下には会っても良いんじゃないか？」

「それが上の二人に知られれば、自分も会わせろって言うでしょ。知らせに来てくれたジノには悪いけど、会わない方向で」

ナナリーに会えば、間違いなく芋づる式で御用…じゃなかった。会うハメになる。こういう場合は徹底して初志貫徹。彼らとバッタリ出くわす。なんて事態にならない限り、会話も顔合わせもしないのが望ましいのだ。

「ん～…分かった。じゃ、俺戻るな」

「はい。わざわざありがとう。ジノ」

close△