九年ぶりに見たかつての我が家（？）は、長い年月のせいか昔より自分には重く、そして厳かで人を寄せ付けない何かを持っていた。

「ここからはシックスのアーニャ・アールストレイムが警護を担当します。何かあれば、近くの者に」

空港から警護をしてくれたのはナイト・オブ・スリーだと名乗った青年だった。物腰や口調からしても貴族。それもかなりの大貴族だろう。対してシックスと言われたのは、ナナリーとあまり変わらない年頃の少女だ。

ルルーシュはその事実に愕然とした。同じくらいの年数を生きていても、人はやはり環境次第で真逆の道を行く事もあるのだ。

「…あの、」

「ナナリー様？」

去ろうとしたジノに話しかけた。

「何か…」

「…あの、スザクさん…セブンの方は、いらっしゃらないんですか？」

その問いにルルーシュとユーフェミアはハッとジノを見、見つめられたジノとアーニャは顔を見合わせた。ルルーシュとユーフェミアの二人にばかり注意を向けていて、ナナリーという存在を危険視してはいなかった。

「セブン…は、今任務中です」

嘘は言ってない。

「そうですか…。ありがとうございます」

ナナリーの言葉に頭を下げて、ジノはアーニャと目配せをした後、優雅に歩き去っていった。

「…よし。」

が、それはルルーシュ達の視界から自分が外れるまで。自分が視界から外れた事を確認して、ジノは走った。目的地はすぐそこ…とは言えない。はっきり言ってこの皇宮は広すぎるから、距離的に言えば５００ｍは走った。しばらくして、目的地に到着。

「スリー！？いかがなさいました？」

「あぁ、フ…スザクはいるか？客が来た事を言おうと思ってな」

「あぁ…はい。少々お待ちください」

スザクについている騎士は、すぐにパタパタと小走りで去っていった。

ジノがフレイヤをスザクと呼んで苦笑されたのは、ナイト・オブ・セブンからナイト・オブ・スリーへの…フレイヤからジノへの言葉が広まっているからである。

曰く、『仕事中は公私をしっかり分ける為に呼び分けましょう』という事である。

一応恋人。しかも皇帝が引き合わせた、実質（裏からの策略で）結婚寸前まで行った二人である。周りからの認識は恋人というより婚約者に近い。

名前の発言は今回の為の仕込みなのだが、いきなり言われたジノはそれはもう慌てた。今でも周りに話のネタにされている。

しかし、フレイヤはこの取り決めを本気で続けるらしく、『フレイヤ・ジル・ブリタニア』の存在を公に公表する彼女の二十歳の誕生日まではこのまま。という事になった。

「別に良いと思うんだけどな…」

ジノとしては、あと少なくとも一年はスザクと呼ぶ義務が発生したのだ。

「何とかしないとっ…」

実はスザク…フレイヤは、かなり頭がいい。しかも昔はあまりなかったという行動力と思いきりと猪突猛進さが加わり、暴走されたら手がつけられないだろうと言うのはシュナイゼルの言葉だ。

「くそっ、敵わない…！」

「誰に？」

「？！」

握りこぶしを作り悶絶していたジノに、後ろから声をかけたのは当人であるフレイヤだった。

「どうかした？いきなり」

「あっ…あぁ。相談したい事があって。実は…」

暴れる心臓を宥めて、ジノはナナリーの事を話した。

全く自分は最近、この少女に振り回されてばかりだと溜め息をつきながら。

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――――――――――エリア１１、トウキョウ祖界、国際空港。

そこには、平日のはずなのに堂々と学校の制服でいる集団があった。

「じゃな、ルルーシュ！」

「ナナちゃん頑張ってね！」

「ユ、ユーフェミア…ちゃん。き、気を付けて、ね」

彼らの向かいにいるのは、二人の少年少女と車椅子の少女。今は手続きでいないが、急遽（一昨日）行く事が決まった女性もいる。

「あぁ。ま、すぐ戻ってくるさ」

「はい…。頑張ってきます」

「大丈夫ですよ。ニーナ」

搭乗のアナウンスがなり、メイド服を着た女性が三人を促す。

「スザクに会えたらよろしく言っといてくれよ！」

その声に苦笑しながら少年―――――ルルーシュは手をふる事で了承した。

「緊張してる？二人とも」

「…まぁ、九年ぶりだしな」

ルルーシュ、ナナリー、ユーフェミア。そして咲世子の四人は、今回ナナリーの本格的な足と目の治療の為にブリタニア本国へ赴く事になった。

もちろんそれが、本国の中枢を担うとある一部の者達に衝撃と混乱をもたらすとは知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――ブリタニア皇宮、ナイト・オブ・ラウンズ専用プライベートルーム。

そこには、頭を抱えてテーブルに突っ伏している人物が一人。

「……来た。とうとうこの日が。来てしまった…」

「…何も、そんなに怯えなくても」

「そうそう。悩むだけ無駄。誤魔化して逃げ切りゃすむ話だろ」

その部屋には三人の人物がいた。発言順に

ナイト・オブ・セブン、柩木スザク。

ナイト・オブ・シックス、アーニャ・アールストレイム。

ナイト・オブ・テン、リオギス・ザルツィオーネ。

の三人である。

会話から察せられる通り、スザクはもうすぐ己の身に降りかかるであろう不幸に頭を悩ませ、怯えていた。これが戦闘など、公に出ればその才を遺憾無く発揮するとてつもない人間だという事を誰が想像できるだろうか。いや、できない。

「あんたまだやってんの…ほら、空港にもうすぐ着くって連絡あったのよ。任務に行きなさい。わざわざシフト組み直したんだから」

「うぅ…」

呆れ顔でそう言いながら入室してきたのはカレン。彼女は既に戦闘体勢に入っており、やる気満々である。

一方、腕を引かれて立たされながらもスザクは唸りっぱなし。

「はぁあ…。護衛はジノ？」

「えぇ。空港の方はもうすぐ着陸で慌ただしくなってるって」

客人達の出迎えと護送はジノが取り仕切っている。今頃着陸体勢に入った飛行機を見ている事だろう。スザクは遠い目をした。平和な日々とはしばしお別れだ。せっかく素で皆とも仲良くなれたのに、ごり押しのように皇宮にいなければならなくさせた兄のせいで、いらない苦労をさせられているのは気のせいではないだろう。

「…じゃあ、行くかな」

ルルーシュ達が滞在するのは、貴賓客が泊まる場である。いくらなんでもシフトを無理矢理動かしたとは言え仕事をしないわけにはいかず、スザクの本日の任務は皇宮内の皇帝が執務を行うエリアの警備。遭遇確率は２０％といったところだろう。

「私は報告書書いてるから、何かあったら連絡よろしく」

「了解」

カレンはつい先程までちょっとした任務が入っており、報告書を提出すれば今日はあと丸々オフ。しかし、明日からは会わないようにさながら鬼ごっこか隠れんぼの如く、隠れたり走ったりしながらの任務である。

だったら国外任務をでっち上げてくれればいいのにと、確実に色々と諦めて遊ぶ方向に持っていっているであろう某宰相の顔を思い浮かべた。

「ほら、早く行きなさいって」

「ん～」

ふらふらと去っていくスザクに、カレンは溜め息をついた。ここ一週間、ずっとあぁである。

「…ジノから。到着したって」

アーニャからの静かな報告に、カレンは苦笑して頷いた。

「じゃ、打ち合わせ通りによろしく」

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そんな会話を図らずしも陰で聞いてしまう事になったジノは、静かに体重移動をしてその場を去った。そして、よく『スザク』達と使っていた少し小さめのリフレッシュルームに入り、散々叱られからかわれながらも覚えた紅茶を淹れる。
「…よし！後は二人を呼ぶだけ」
先程女官に声をかけてほしいと言っていたので、それは時間の問題だろう。
「俺にしてやれんの…これくらいだもんなぁ」
入り込めない空気が、そこに在った。言われて慌てて追いかけたものの、そこに在ったのはどうあっても自分には立ち入る事の出来ない『絆』だった。
「ジノ？どうかしたんですか？」
「何なの、いきなり」
いぶかしみながら入ってきた二人に席を勧め、ジノはスコーンとクッキーの入ったバスケットを置いた。
「しばらく安心してゆっくりお茶なんて出来ないと思ってさ。今の内にゆっくりしておこうと思って」
初めて会ってから一年半。顔を合わせる機会は多い方だが、それでも二人がしている周りとの線引きは未だ消えていない。
いつか、その心の内にある想いを一欠片でも良いから自分に見せてくれたらと思う。
「お茶…ねぇ」
「どうせ準備だ打ち合わせだで時間取られるだろ。休んどくなら今のうち！」
自分ができる一番の事は、明るく笑って、二人を笑顔にさせる事。否、今まで通りに二人に接する事だ。
「………まぁね」
「だろ！さ、フレイヤもカレンも食べろって！このスコーンなんてできたてだからな」
そして、肩の力の上手な抜き方を教える事だ。










颱風襲来まで、あと、７日。

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「………フレ…スザク」
カレンが追い付くと、フレイヤはアリエスの庭を見ていた。自分が知らない、本当の意味で『フレイヤ』でいられた時の思い出が、ここには溢れている。
「カレン…俺はやっぱり、あの時死ぬべきだったんだよ。人々に混乱を招いた。許されない思いを抱かせ、抱いた。カレンが必死になるほど俺は…世界が、人々が必要とする人間じゃない」
「っ…」
「だって…怖いんだよ。騙していたのかと罵られるのが。畏れられて敬遠されるのが…特にルルーシュは、全てを覚えているだろう。あれから一度も会っていなかったけど…世界が必要としないのは、彼じゃない。……俺だったんだから」
「っ…、それでも、私はあんたを守るって決めたわ。あんたが守るものの為に命を投げ出すなら、あんたの命は私が拾う。あんたから『昔話』を直接聞いた人間として…一人の騎士として、女としてね」
フレイヤは振り向かなかった。故に、カレンはフレイヤの背に抱きつく。生きているのだと実感させる為に。
「…私は、死にかけてたあんたを生かした。だから、あんたが生きるこれからに、私は責任があるの」
「カレン…そんな、」
そんな事はない。一人で孤独に死のうとしていた自分を、こちら側に繋ぎ止めてくれたのは彼女だった。
死なせてほしいといった自分に、ただ一人、本気で怒鳴って叱り飛ばして説教までした。
生きてほしいのだと、生きていいのだと、自分に言ってくれたのだ。
「私こそ…カレンにとって大切な居場所を、奪ってしまった。……それなら私には、カレンが幸せに生きる為に心を砕く義務がある」
「フレイヤ……」
向き合い、見つめ会う。
結局のところ、自分達は似た者同士だ。いつもいつも似たようなところで立ち止まって、苦悩していつも何かを捨てる。その何かが大きくて、そしてまた苦悩し続ける。
得ては失う。そんな事の繰り返しだ。
「……大丈夫よ。何だかんだ言いつつも、あの閣下は会わないように取り計らってくれるわ。もちろん私も、あんたが苦しまないように、守る」
「カレン……ありがとう」

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「………フレ…スザク」
カレンが追い付くと、フレイヤはアリエスの庭を見ていた。自分が知らない、本当の意味で『フレイヤ』でいられた時の思い出が、ここには溢れている。
「カレン…俺はやっぱり、あの時死ぬべきだったんだよ。人々に混乱を招いた。許されない思いを抱かせ、抱いた。カレンが必死になるほど俺は…世界が、人々が必要とする人間じゃない」
「っ…」
「だって…怖いんだよ。騙していたのかと罵られるのが。畏れられて敬遠されるのが…特にルルーシュは、全てを覚えているだろう。あれから一度も会っていなかったけど…世界が必要としないのは、彼じゃない。……俺だったんだから」
「っ…、それでも、私はあんたを守るって決めたわ。あんたが守るものの為に命を投げ出すなら、あんたの命は私が拾う。あんたから『昔話』を直接聞いた人間として…一人の騎士として、女としてね」
フレイヤは振り向かなかった。故に、カレンはフレイヤの背に抱きつく。生きているのだと実感させる為に。
「…私は、死にかけてたあんたを生かした。だから、あんたが生きるこれからに、私は責任があるの」
「カレン…そんな、」
そんな事はない。一人で孤独に死のうとしていた自分を、こちら側に繋ぎ止めてくれたのは彼女だった。
死なせてほしいといった自分に、ただ一人、本気で怒鳴って叱り飛ばして説教までした。
生きてほしいのだと、生きていいのだと、自分に言ってくれたのだ。
「私こそ…カレンにとって大切な居場所を、奪ってしまった。……それなら私には、カレンが幸せに生きる為に心を砕く義務がある」
「フレイヤ……」
向き合い、見つめ会う。
結局のところ、自分達は似た者同士だ。いつもいつも似たようなところで立ち止まって、苦悩していつも何かを捨てる。その何かが大きくて、そしてまた苦悩し続ける。
得ては失う。そんな事の繰り返しだ。
「……大丈夫よ。何だかんだ言いつつも、あの閣下は会わないように取り計らってくれるわ。もちろん私も、あんたが苦しまないように、守る」
「カレン……ありがとう」

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