退職される先生も一人。
花を持っていくことはしませんが、何か言葉をかけた方がいいんだろうなぁ・・・と、考え中。
ラウンズ全員が静かに耳を傾ける。シュナイゼルは若干疲れているらしく、声からは疲労の度合いがありありと感じられた。
「客人…」
「あぁ。人数は三人。その内の一人が色々と厄介なんだ」
その言葉に、フレイヤがいぶかしむように声を上げた。
「入らせない。という選択肢はないのですか?いくら客人と言えど…」
誰もがそう考えた故に頷くが、シュナイゼルは疲れきった笑みを浮かべる。
…こう言ってはなんだが、やつれているようにも見える。
「それがそうもいかなくてね…。その人物は付き添いなんだが、陛下への謁見も正式に決まっている。無理なんだ」
「………付き添い?」
カレンが反応したのはそこだった。
「そうだ…。妹の付き添いで」
ガタンッという音がしてそちらを見ると、フレイヤとカレンが揃って椅子を倒して立ち上がっていた。
「どうかしたのか?心当たりが」
「シュナイゼル殿下。まさか私に会えとは言いませんよね?」
流石というかなんと言うか、理解が速すぎる。同様の事を目で問うカレンも視界に入れ、シュナイゼルは感嘆した。
「…シュナイゼル、宰相閣下?」
厳かに、背に確実に何かを背負ってフレイヤが問うと、シュナイゼルはしばしの沈黙の後、口を開いた。
「カレンはともかく、君がラウンズにいるのは軍内でも有名だ。ユフィーが話してしまったらしくてね…すまないが、『柩木スザク』として彼らの前に立ってほしいと…」
ふらっと後方にフレイヤの体が傾き、たたらを踏む。何だか顔色が悪い。
「……『俺』に、拒否権は」
「…悪いがない。これでも君達に話さず一月粘ったんだが…」
「それはこっちが任務を入れてトンズラしないようにって意味の粘りだろうが!俺は絶対に会いたくない!」
「そういう訳にもいかないだろう。君が一番親しいんだから」
「断固拒否するっ!」
ギャーギャーと言いあいをし始めたフレイヤとシュナイゼルを見て、ジノはスッとカレンの横に移動した。
「おい、何なんだ?」
カレンは立ったまま硬直していたが、肩を数回叩くとハッとこちらを向き、椅子を起こして勢いよく座る。
「悪い癖よ…。『柩木スザク』だった、男として生活してた時の口調がたまに出るの。しかも最悪な事に乱暴粗暴な口調でね。戦闘で予定通り行かない時なんかあの口調でビシバシ部下とか叱りつけて馬車馬のように働かせるから、皆あれを『黒スザク』とまで呼んでたりするわ…。後で謝るんだけど」
しかもそうなると任務効率が上がるから悲しい。お詫びと言わんばかりにアヴァロンで帰還中に度々繰り返される宴会は、もうほとんど恒例化している。しかも謝られた側はまた叱られると知っていて謝罪は受け入れるが、改善はしない。
「うちはあれが現れたら任務終了一時間前よ。それを破って記録達成した敵はいないわ」
「…へぇ」
新たな一面である。迫力も殺気も一級品だから余計に怖い。まるで戦場にでも立っているかのようだ。
「大体!こういう場合は任務にでも出して会わないように心を砕くのが普通だろう!それをいきなりか!?ふざけんな。俺達の心中を少しは察しろ!」
「そうは言われても仕方がないんだよ。君がいる事は誰もが知ってる。別に『フレイヤ・ジル・ブリタニア』として会えと言っているんじゃないんだ。『柩木スザク』として…」
ヒュッと風を斬る音と共に、フレイヤの拳がシュナイゼルの頬を掠めた。
ラウンズ達からフレイヤの顔はうかがえないが…黙らせる為にとは言え、もし当たっていたら痛いじゃすまない。よく見ると、シュナイゼルの後方にある花瓶が倒れていた。拳圧、とでも言うべきなのだろうか。水が滴り落ちる。
「……………分かった。会う」
「…フレ」
「ただし、俺は自分から会いに行く事はしない。あちらからの面会要請にも一切応えない。陛下や、例え貴方が仲介に入ろうがだ。会って相手をしなければならなくなった場合のみ許容する。………失礼」
逃げるように部屋を出ていったフレイヤをカレンが追い、室内には静寂が訪れる。
「殿下。血が…」
トゥエルブが気づいて指摘したそこは、シュナイゼルの右肩。血がにじんでいる。重い皇族服の上着は脱いでいたから、もしや当たっていたのだろうか。恐るべきフレイヤの拳。
誰もがそう思った中、シュナイゼルは苦笑して否定した。
「違うよ。これは…あの子の血だ。手を強く握りすぎて爪が食い込んだんだろう。私の血ではないよ」
悔しくて哀しくて怒りで一杯で。そんな瞳をしていた。彼女には今でも、癒す事のできない傷がある。
「殿下、おいでになるのは…」
「……亡きマリアンヌ皇妃のお子である、ルルーシュ・ランペルージとナナリー・ランペルージ、そしてユーフェミアだ。ルルーシュとユーフェミアは正式に皇位継承権を放棄している。ナナリーは今回目と足の治療と…正式に、皇位継承権の返上でこちらに来る」
先程の話からすると、問題なのは兄のルルーシュであるという事か。
そう判断して、しかし何故?と考えていると、シュナイゼルから思いもよらなかった言葉が出た。
「ややこしい事に、三人はスザクがフレイヤである事を覚えていないし、私達も教えてはいないんだ…。ついでに言えばユフィーはスザクの事をとても気に入っていてね…ルルーシュは、スザクがナナリーと結婚してくれればと思っているらしく、その上もしスザクが女だったら自分の嫁にするとまでいったらしい…」
まさしく、一難去ってまた一難。
まさか、知らないとは言え己の姉に恋をするとは。
「…そういえば、ヴァインベルグ卿」
「はい?」
「君は行かなくても良いのかい?あの子の後を追わなくても?」
その突然の言葉に思考をたっぷり十秒考えたジノは、その後慌てて部屋を飛び出した。
「……閣下、それでは」
「あぁ、フレイヤに先を越されたがお前達にも協力してほしい。陛下からも言われているからね。フレイヤとあの子達が顔を合わせないように…もちろん、カレンも同様だ」
第一弾アンケートは明日には取り外そうかと思います。しかし、第二アンケートは・・・やろうか迷っています。短編設定のどれかを選んでいただいて、それの続編を書こうかと思ったのですが・・・。やるとしたら、四月からになりそうです。
このシリーズはジノがスザクに振り回されるというより、カレンがジノを精神的にいぢめ、それをスザクがなだめ、それを他のラウンズたちが呆れながら見ていて、アーニャがブログに載せるという構図が一般的になりそうな・・・?
とりあえず、ジノスザ←←←←ルル&ユフィ・・・?的になるかも。あくまで予定です。
よろしければ、どうぞ。
そんな言葉がピタリと当てはまると、話を聞いた誰もが思った。
あわや婚約・結婚という騒動がやっと落ち着き、その後任務で中東に向かってやっと帰還したのは一月後。
「…あれ」
報告もすんで皇宮の中を歩いていると、中庭に一月ぶりに見る人物。あれから女物の服を着る機会も多くなったと、宮に仕える女性の多くは嬉しそうに語っていた。
「ぁ…、ジノ!」
意外にも自分の方へ飛び込んできた少女…フレイヤを受け止め、ジノはふわりと風に揺れる髪を撫でた。
「お帰りなさい、ジノ。任務の方はいかがでした?」
「う~ん…まぁまぁかな。色々と手間取った。………ところでフレイヤ」
「はい」
一月ぶりに見る笑顔はやっぱり通常より四割増で可愛く見え……じゃない。あくまで『恋人』。仮の人間。平常心平常心。
「何故、俺に抱きついていらっしゃるんでしょうか…」
フレイヤには見えないが、ジノからはバッチリとカレンが見える。笑っているように見えるが、後ろに何か恐ろしい形相をしてポーズを決めているものが見える。何だかよくわからないが怖い。物凄く怖い。
「ジノ?」
「えっ?あ、ごめん」
「……いいえ。ただ、兄上様がこうしてあげたらジノが喜んでくれると…」
………考えるまでもない。『兄上様』はシュナイゼル宰相閣下だ。
あの人は妹であるフレイヤに色々と吹き込んでは俺の反応を楽しんでいる。
「フレイヤは、仕事は?カレンとだったんだろ」
「はい。皆が疑わないように頑張りましたよ。その結果、ロイドさんが異様に喜んでましたけど」
「……そう」
きっと、今まで以上の数値に喜び跳び跳ね回り、今も研究に没頭しているに違いない。
「こちらは死亡者・重軽傷者共になし。全員無事に帰還しました」
「そっか。俺の場合は暴動抑制が主だったから、事後処理とかが面倒だっただけかな」
「……あの二人は自覚があるんだかないんだか」
優に10mは距離をとって、カレンが呟いた。ジノは誰の目から見ても明らかだが、フレイヤは無自覚であれだ。色々と吹き込まれて余計にタチが悪い。
「…まだ、早いのよ」
自分にもフレイヤにも、未だ癒えない傷はある。
先日エリア11に訪れながらも、かつての仲間達に会う事は出来なかった。ゼロを守ると言いながらゼロの正体とその目的に絶望し、嫌悪した。守りたいものを見つけたけれど、代償として自分は黒の騎士団の零番隊隊長という地位を捨て、ラクシャータ達と共にブリタニアに渡った。
今自分が何をしているのかを知れば、彼らの誰もが自分を裏切者と呼ぶだろう。『日本人』と呼ばれる権利を捨て、否呼ばれる権利を持ちながらも、共に戦った仲間から離れてここにいるのだから。
後悔はない。ゼロも消え、騎士団は扇が率いている。今ゼロに会えば間違いなく、自分は彼を罵り剣を向けるだろう。
「難しい顔をしてるな」
「!…ノネット……」
「悩む前に動きな。その方があんたらしいよ。せっかくあんたもラウンズに残れたってのに、もう脱落か?」
「なっ…だ、脱落なんて…」
「なら、軍人らしくしてな。あんたは十分強い。あのお姫さんは…いや、セブンは己を持たない人間と一緒にいたいとは言わないよ」
「……うん。ありがと」
ノネットとラクシャータは似ていると最初は思っていた。口調とかではなく、雰囲気が。しかし、ラクシャータは武人ではない。ノネットは武人として、自分にしっかりと助言もくれる。
コーネリアが彼女に頭が上がらないというのも、今さらだがわかってきた。
「そういえば、どうしてここに?」
いつの間に二人の世界から帰ってきたのか、ジノとフレイヤがこちらを見ている。
自分達三人の顔を見て、ノネットは苦笑した。
「宰相閣下がお呼びだよ。ナイト・オブ・ラウンズ全員に収集がかかってる」
「全員に…?」
世界各地を飛び回らされていると言っても過言ではない皇帝の騎士団。その全員が本国、しかも皇宮内にいる事自体珍しい事この上ないが、その上全員に収集がかかったとは。
「どうやら、悪い報せらしい」
ノネットの言葉に全員が肩をすくめたり溜め息をつく。
全員収集と言う時点で、悪い報せなのは決定事項だ。
日の出と共に起き、早々に出発です。
車の中で寝てしまうんだろうなぁ~・・・。運転をしてくれる父に感謝と謝罪を今のうちから。
引越先から更新が出来るのは、今月末からか・・・もしくは来月。
来月になると、生活に慣れるまで更新しにくいかもしれません。
とりあえず、二期パロ第一弾、最終話。
しかし、人生も世の中もそう甘くはなく。
「それは本当かい?コーネリア」
その日の夜、シュナイゼルはエリア11にいるコーネリアと深刻な顔で話し合っていた。
『えぇ…こちらで解決できると思っていたのですが、そうもいかなくなりました…。陛下、いえ、父上の懸念が的中したと言えばそれまでですが』
シュナイゼルはこめかみを押さえた。一難去ってまた一難。人生は甘くない。そんな言葉が身にしみるようである。
「……分かった。早急にフレイヤとカレン、メリアスも入れて話し合おう。あぁ、いや…ヴァインベルグ卿にも協力を仰ごう。あの子は意外と暴走する…」
『いっそ、ナイト・オブ・ラウンズ全員に協力要請してはいかがですか?こればかりは、皇宮から外へ話が漏れる事は必須ですし…』
「色々と外聞が悪くなるかもしれないね。覚えていないだろうし…」
暴走した結果が目に見えるようである。人生七転び八起き。しかしあと何回転べば起きたままでいられるのか。言葉通りの意味を成さない日本語の格言に悪態をつきつつ、間違った意味とは言え、七回転んで最後には起き上がったままであるならばどれだけ楽かと、正しい意味を教えてくれたかつての皇妃を思う。
「……避けられない事象をない事にしたいとは思わないが、回避する努力はしよう」
『…お願い致します。義兄上』
黒くなった画面を見ながら、シュナイゼルはため息をついた。あちら側のコーネリアも同じ事だろう。
さて、今頃パーティーでも開いて受かれて騒いでいそうな彼らに、明日どうやってこの事実を知らせるか。事の重大さを瞬時に理解してくれるのはフレイヤとカレン、そしてメリアスだけだろう。
「…あぁ、ナイト・オブ・ワン。彼も理解してくれそうだな」
もしかするとEUや中華連邦相手に外交戦略を打ち出したり狸と狐の化かし合いのように交渉をするよりも疲れるかもしれない。
次に待ち構える案件を目の当たりにし、シュナイゼルはただ、ため息をついて憂れう事しか出来なかった。
落ち着いたら次を書こうかとも考えています。
今週末には引越しです。一度戻ってくるんですけどね。新生活は4月から。
多分お隣さんや下の階の人たちも同じ学校に通うと思うんですよ。仲良く出来ればいいなぁと今から考えています。あと、もう一つ。出来れば同じ趣味というか・・・そういうのを持っている人がいるといいなぁ・・・なんて。
後一話でここで連載しているのは終了です。来週には第一アンケートを撤去して、第二アンケートに移行します。
穴だらけで後で修正決定ですが、どうぞ。
「コーネリア殿下に連絡してくるわ。ワン、フレイヤをラウンズに留めさせる事は出来ますか?ご協力をお願いしたいのですが……」
カレンは鋭い視線を崩さずにナイト・オブ・ワンに向き直る。
「ふむ…フレイヤ様であろうが『柩木スザク』であろうが、我が軍にとってはなくてはならぬ存在だ…。今普通に公表すれば、陛下達が戦場から引き離そうとするのは必須…一芝居打つ事になる。軍の為と言えどな」
「………私は構いません。フレイヤ、大きな任務が五日後にあって、陛下と謁見が…フレイヤ?」
どんどん進む話に、いつの間にやらフレイヤは深くため息をついて呆れていた。まぁ、当然でもあろう。
「分かりました…。とりあえず、父上達に場の混乱だけは先に謝罪しておきましょう。噂好きの婦人がこちらに来そうな時間帯も考慮して…噂が皇宮内ですぐに広まるようにしましょう。次の任務の時は最小人数で…私が全面に出ます」
最早諦めの極地にいるフレイヤは、とりあえずカレンから与えられた言葉から詳しい作戦内容を組み立てた。
「フレイヤ……」
「大丈夫ですよ。ジノ。あぁなったカレンは止められないんです。最後の最後まで、己の道を貫く人ですから」
何だか誉めていないような物言いと表情に、ジノもまた諦める。
「じゃあ俺は…うるさい親戚連中を牽制して黙らせとかなきゃいけないのか……」
「あらわかってるじゃない。頼むわよ。私、あんな狸の集団の相手できないから」
颯爽と己の視界からフェードアウトしていくカレンの後ろ姿に、ジノは大きくため息をついた。
さて、それから五日後。
「姫様……」
「…メリアス。気遣ってくれるのは嬉しいけど、大丈夫だから。心配しないで。ね?」
『柩木スザク』の仮面にラウンズの騎士服をまとい、フレイヤは苦笑した。
「しかし…色々と言い分は考えたけど、本当にあれで良かったかなぁ?そこまで演技をする必要性は…」
「姫様なら大丈夫です!それに多少大袈裟な方が、皆様口をつぐみますわ」
「だと、いいけどね…」
あのシュナイゼルに『お前は演技派だ』とまで言わしめたフレイヤの演技力だが、それを遺憾なく発揮して周りを騙して丸め込むというのは、普段とは違って少々罪悪感がある。
「…まぁ、頑張ってくるよ…」
自分のやりたい事をやりとおす為にも、これは必要な事なのだから。
「よ…。カレン」
「ジノ…。その様子だと、親戚連中は黙らせたみたいね。任務お疲れ様」
「どーも。大変だったぜ?向こう三年はあの強欲も過ぎた連中とは会いたくねぇ。この皇宮内でじゅーぶんだ…。と、お前は今からか」
報告も終わって騎士服を着崩しているジノとは違い、カレンはビシッと着ている。これからお偉方に会う証拠だ。
「まぁね…。楽しみにしてなさい。この皇宮内をひっくり返すような茶番を演じきってあげるわ……」
ふふ…ふふふ…。と笑うその様は実に不気味だ。目は据わり、心なしかどろどろと…否、どんよりと重い空気が背後に見える。
「そ…そうか」
尚も怪しげに笑いながら進むカレンを見送って、ジノはため息をついた。
何をしようとしているのやら。
予想がつかないから、余計に怖い。
ちなみにその日の夕方、他のラウンズ達もいる部屋にフレイヤがいきなり飛び込んできて、騎士継続と結婚白紙をもぎ取ったと報告する事をジノは知らなかった…。
しかし、そこでまた問題発覚。私の進学先の土地では、TBS系列の放送局がいらっしゃらない模様。つまり、ネットで見れたらめっけもんだね☆・・・・・・的な感じになるわけですね。いや、DVDは買いますよ?根性で買いますとも。しかし、・・・ねぇ、無いのは悲しいですよ?かなり。
これから先一年、金欠にならないよう節約を心がける傍らギアスをいかに楽しみ、いかにDVDを買い揃えるか。それが今の私の最大の課題です・・・(泣)
追伸、下の小説は後で書き直そうかと思います・・・。
いきなりズカズカと入ってきたカレンは、勇ましくもジノの胸ぐらを掴み上げる。
「あんたが私やフレイヤに偏見を持たずに接してたから、宰相閣下があんたにしようと思ったんでしょうが!」
そう叫んではグラグラとジノを揺らす。かなり見ていて過激な光景だ。
「フレイヤにって…え?一週間前が初対面っ…」
「あぁ、じゃあスザクって言ったら分かる!?スザク!」
「っ、カレン!」
「………………あ、」
しばらく沈黙が流れる。誰もが静止したまま動かない。
ある者は状況把握に頭脳をフル回転させ、ある者は己の失言を悔やみ、ある者はどうにもできずオロオロとしながらも頭の中でシュミレーションを繰り返し、ある者は完璧な第三者的立場で場を静観していた。
そしてしばらくして、一人が口を開いた。第三者的立場にいたナイト・オブ・ワンである。
「どんなきっかけであろうと陛下や閣下が選んだ男だ。事情を話してやれ」
その言葉にカレンはまず、まず掴み続けていたジノの胸ぐらを放した。
「……つまり、」
ジノは混乱しながらも七日間の間に起こった珍妙な出来事の根底を理解した。しかし、まだ脳内での整理はついていない。とりあえず、口に出して言う事にした。
「…つまり色々と事情があって当時の日本に行って、ついでに人生をかけたも同然のとある事をしていて、クロヴィス殿下には見つかんなかったけどコーネリア殿下にはついに見つかっちゃったけど何とか説得して陛下にも軍人としてある事をお許しいただき、『柩木スザク』としてナイト・オブ・セブンまで上り詰めた…と」
フレイヤとカレンが頷く。
「昨日の水の泡っていうのは…」
「せっかく実力で上り詰めたのに、それをなかった事にされるからです。必ず誰かは噂します。『皇女が陛下に頼んでラウンズの地位に上がった』と」
そんな事はない。とは言えなかった。彼女の顔を知らなかったものであればあるほど、その手の噂に飛び付く。実力で敵わないからと中傷する。
そういう世界なのだ。
「だから、私は……」
実力で上り詰め、影から父を守る存在で在りたかった。最近妙に戻せ戻せとうるさかったが、ジノに知られた事でこれ幸いと押しが強くなったのだ。
「戻りたいと…父上様や兄上様や姉上様…皆と普通に喋りたいと思う時は確かにあります。でも……」
今を失いたくもない。それも本音だ。
「……………さっきも言ったけど、俺は、迷惑じゃない」
ふとフレイヤが顔を上げると、そこにあったのは真面目な顔をしたジノだった。実を言うと、ジノを選んだ兄は人の心の内を読む事が出来るのではないかと思っている。兄は、シュナイゼルは自分の誰にも伝えずに終わった恋心を知っているから。何処か何かが似ているジノに、白羽の矢を立てたのだろう。
「本当に…迷惑じゃないんですか……?」
自分は皇女と言えども半分は異国の血が流れる身。そして、貴族の子女らしくおほほほほと笑ってただ箱庭にいる事を選ばなかった娘だ。父の為に、次に皇帝となった者の為に国の為に尽くすのが己が役目。
女としての人生など、既に八割方捨てている。
「…うん。俺は、フレイヤがいい」
「ジノ…」
ジノの瞳に偽りは写ってはいなかった。ただ、瞳に自分の姿が写るのみ。真っ直ぐに自分を見つめている。
「っ、ちょっと待った!」
実はいつの間にか完全に二人の世界を築き上げていたフレイヤとジノの間に割って入ったのは、眉間に皺を寄せたカレンだった。
「カレン…?」
「私はコーネリア様からも『フレイヤに悪い虫がつかぬようよろしく頼む』って言われてるのよ!私も!婚約者になるならあのコーネリア様を納得させてからにしてちょうだい!」
その気迫と言葉にジノは気圧された。
そうだ。あのコーネリア殿下の存在を忘れていた。先程フレイヤが味方にと言っていたという事は、陛下や閣下と相対してでもと言うほどフレイヤを大切にしていると言う事だ。
「……私は、あんたの事はすご~く、ものすご~く気に入らないけど、イヤだけど!フレイヤの幸せは騎士である私の幸せでもあるから認めてあげるわ」
だったら認めなくても良い。とはジノは言えなかった。味方は多い方が嬉しいし、発言内容は気になる部分もあったが、まぁ、自分ではコーネリア殿下への対処法を知らないのも事実。
「陛下達が何か差し迫った事情があって今回あんたを引っ張り出したのは明白よ。そうでなければ今頃口止め代わりに激戦地へ任務に行かされて闇討ちされてるか見た事は忘れろって脅しかけられてるかのどちらかだもの」
「おい」
「だから『婚約者』はやめて。コーネリア様がエリア11から飛んできかねないし、何かあった時に誤魔化せない。だからってヴァインベルグ家への協力要請やら挨拶やらなんて借りを作りそうな事はめんどくさいからいやだし…」
「おい」
さりげなく毒を吐かれている気がする。不本意だ。
「だから恋人という事にして。ただし!これに惚れたからには覚悟してもらうわよ。私達の行動に!」
私達=カレン達。
ジノは、ただただカレンの気迫に頷いた。